黒鷲の旅団
5日目(15)トライアングル未満
「ああああうー!
人間さんー!」
「良かったー!
人間さん、良かったー!」
気が付くと、泣いてるアルラウネ達。
アルラウネも泣くんだな。
盾を投げた、手荒な緊急回避を詫びる。
首を横に振られた。
守ってくれたのは分かったと。
斬られた腕は。元通りになっている。
カシューさんが治してくれたらしい。
義手の方だったが。
うん、動作に異常は無い。
上手く繋げる物だと感心したのだが。
復元魔法?
時間を少し巻き戻す魔法、だそうで。
形状は戻せるが、宿る魂は戻らない。
蘇生には使えない魔法なのか。
消費魔力は、1秒当たり100……
お手間を掛けた様だ。
救済は強者の義務だと言うのだが。
魔力薬の1つも受け取ってください。
「すまない。僕も大人げなかった。
大切な仲間だとは思わなかったんだ」
ブッ飛ばされて冷静になったのだろう。
ランスロット謝罪。
レーネの一件もあった。
気に食わないと思われたのは仕方ないが。
カシューさんが俺を気に掛けている。
それがまた、気に入らなかった様だ。
醜い嫉妬だ、笑ってくれとランスロット。
まあ、分かるよ。
彼女は何と言うか、良い女だから。
しかし、アンデッド退治で共闘。
借りのあるアルラウネだ。
一時でも共闘した仲間。
事情も聴かず殺されては困る。
と、興味が湧いたのか。
カシューさんが解析魔法。
「アルラウネの亜種、ですかしら。
通常種は殿方を好んで襲うそうですけれど。
傾向は無邪気、献身、友愛……
使い魔に出来るかしら」
「使い魔……
あ、あっ、では、貴方は魔物使いさん?
闇の力で魔と戦う闇祓いの一派?
そういったお仕事をされる方も居ると」
声を上げたのは、誰だっけ。
ランスロットの従者の人。
女司祭オデットさん、だそうで。
そんなカッコいい物じゃない。
お人好しを拗らせた、唯のおっさんだ。
カシューさんとの関係を聞かれ……
まぁ、昔馴染みかな。
「あっ、も、元カレ!
元カレでしたのよ」
カシューさん、ご冗談。
俺が一方的に好きだっただけだよ。
と、カシューさん、蹲る。
地面にのの字を繰り返し書き始めた。
まあまあまあまあ言って止まらない。
大丈夫か。
ランスロットも興味を持ったのか。
幼少期のカシューさんについて聞かれる。
本人が言わない事を、勝手に言うのもな。
ランスが知り合ったのは最近か。
最近のカシューさん。
高級娼婦カサンドル・シュー。
歌って踊れて喋って脱げる?
超多方向性の万能アイドル。
彼女を抱く為に億単位の金が動く女。
称えられても罵られても笑顔を返す。
全てを受け入れる。
そして全てを受け付けない女。
そんな、まあ、大物だ。
俺は寄り道の1つだろう。
優しく接してくれた。
幾らか舞い上がっていた。
他の男が居るのを知った。
距離を置いて……
根本から身の程知らずな話さ。
逆に、ランスとカシューさん。
今、どういう関係なんだ。
ランス曰く、付き合っている。
「僕こそ、一番彼女に相応しい。
そう自負している」
「2度3度寝ただけですわ。
それで娼婦の心は掴めなくてよ?」
「つれないなぁ。
いつか振り向かせて見せる」
「どうぞ、ご勝手に。ふふふ♪」
熱を上げるランスに対し。
カシューさんは余裕の顔。
適当にあしらいつつ。
しかし満更でも無いのだろう。
ランスロットが先に帰って行く。
煌びやかな美人、ハイレベルの装備。
そりゃあ見栄えが良い。
箔だの名声だの付いて回るだろう。
何だか負けた様な心境だが。
纏わりついて来るアルラウネ達。
こいつらを守り切ったのは確かだし。
今はそれで良しとしよう。
しかし……いつか勝ちたい、かなぁ……
カシューさんを返せ、などと。
とても言えた義理でも無いのだが。
かつての憧れの人。
その隣に、別の男が居る、か。
複雑な感情を否定できない。
せめて、太刀打ちできる程度には。
もっとレベルを上げようと心に決めて。
俺も帰還しよう。
お礼をしたいというアルラウネ達。
植物魔法を教えて貰う。
名残惜しそうだが、明日も仕事だ。
またなーと手を振って別れ、街へ。
ふと、門の所でサンダーバロン。
ニヤリ顔は何か見ていた様だが。
何も言わず手を振るだけ。
何か含みがあるなぁ。
帰ると時間も遅く、酒場は閉っていた。
起こしても悪いかと解錠魔法。
しかし女将が起きて待っていて。
驚かせてしまったか。
何て言うんだっけ、アレ。
パン生地を延ばす棒で殴られた。
「ああっ、ごめんよ! 大丈夫かい?
泥棒かと思ったんだよ……」
ああ、うん……大丈夫。多分。
眠りたいのに目が覚めてしまった。
どうしたモンだかね、こりゃあ。
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