黒鷲の旅団
5日目(16)道は違えても

『今からでも、久しぶりに会えないかしら』

 リアル・カシューさんから通信。
 通信を貰ったのが深夜。
 残念ながら仕事だ。深夜だが。

 傭兵の仕事。急な休戦破棄。

 ラーティカイネンの件……
 これは無関係と思うのだが。
 しかし、交戦地域が被っている。
 何だかスッキリしない。
 スッキリしない仕事だ。
 さっさと片付けるに限る。

 現場に急行しつつ、返信。
 すると、じゃあ聞いていてねと。
 何だって?

「ははっ、今夜のバトルはBGM付きか」

 車、バンの中、サナトスが声を上げる。
 何か端末を操作して……
 途端、街中のスクリーンにカシューさん。

『夜分に失礼いたしますわ。
 急に歌いたくなってしまいましたの。
 よろしければ聞いてらしてね。うふん♪』

 可愛くウインク。
 電波ジャックでゲリラライブ。
 近隣のハッカーや技術者に声を掛けて。
 大小の苦情も出るだろうが。
 ファンの財力が勝手に黙らせる。
 後ろ盾のある自由奔放は止まらない。

 しかし、あのステージ衣装。
 いつ着たんだ。
 あの格好で俺と会うつもりだった?
 でなければ、CGの類だろうか。

 実はCGで寝間着姿で。
 それであのテンションとか考えると。
 それもホッコリしてしまうのだが。

 エレキを掻き鳴らすカシューさん。
 歌詞は甘く切なく。
 曲調は軽快に勇ましく。
 敵味方ともテンション上がりそうな。

「いいねー。これ何て歌?」
「知らない。新曲」

 バリーの問いにヴィルヘルミーナ。
 少々不満げにも見えるが。
 不満の矛先はカシューさんじゃない。
 ヴィルは彼女の音楽データを集めている。
 要するに大ファンと、少し前に聞いた。

 不満の理由は、戦闘音が邪魔。
 録音したいのに集中できないのか。

 しかし、再度休戦の選択肢は無い。

「対艦ミサイルの使用を推奨。
 2発もあれば灰に出来る」

「バッカヤロ。
 スクリーンまで吹っ飛ばす気か。
 却下だ、却下。
 ガトリングで狩って来い」

「むう……仕方なし」

 バンの後部を開ける。
 ヴィルヘルミーナ、飛行ユニット装着。
 主武装はガトリング・レールガン。
 戦車もハチの巣だな。敵も気の毒に。

「ういーす、行ってらー」

 バリーに送り出され。
 ヴィル、飛翔。飛行ユニットだ。
 すぐバンを追い抜き、先行する。

 こりゃあ、今日は出番無いかなぁ……
 バリーも早々に、パチンパチン。
 銃器のセーフティをロックしている。

 バンを走らせながら。
 カシューさんの歌を聞く。

 愛していたのに別れて1人。
 どうして置き去りにされたの。
 好きじゃないならそうと言ってよ。
 愛の残り火がまだ消えずにいる。

 愛していたのに別れた2人。
 どうして置き去りにしたの。
 好きだったからと今分かったから。
 愛の残り火がまた燃え上がる。

 ……これは、何だ。
 俺とカシューさんの間の話?
 そこから着想を得た?
 何でも糧にしてしまうんだな。
 などと、ぼんやり考える。

 彼女に娼婦を辞めさせたかった俺。
 俺に殺し屋を辞めさせたかった彼女。

 身体を売る必要なんて無いと言って。
 しかし、男を連れ込んだ彼女。
 新しい男が出来たのかと距離を置いた。
 ただの客だったと知った。
 ずっと後の話だ。

 復縁……無いだろうな。

 傭兵として名を上げてた。
 頼られるぐらいになった俺。
 簡単に引退なんてさせて貰えないだろう。
 彼女は、そんな男を待ち続けられない。
 いつ死ぬとも知れぬ男など。

 アイドル然として有名になった彼女。
 俺なんかが独占したいと思った所で。
 彼女を求めるファンは絶えないだろう。

 相手が大物になり過ぎたし。
 俺は俺で抱えた物が多過ぎる。

 ゲームの世界は、レベル差が凄い。
 ラーちゃんさんとも仲が良い様だし。

 要は、俺の間が悪いんだろうなぁ……

 まあ、いずれにしても。愛情とか。
 上手く言えんが、それに近い物はある。
 側に居なくても良いんだ。
 ただ、彼女の幸せを守れるなら。

『君の幸せを守りたいーからー』

 思考が丁度、歌声と被った。
 少し笑ってしまった。
 気が合う相手ではあったのだろう。

 ライブ映像が終わって。
 ほぼ同時に通信が来た。
 どうでしたか、って?

 そうだな……諸々ひっくるめて。
 ありがとう、とでも言っておこうか。



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