黒鷲の旅団
6日目(2)不信半分
出戻り気味に酒場へ戻る。
少し時間を潰そう。
装備の点検、衣類の修繕など。
時間を潰していると……来たか。
酒場に騎士2人。
ギャレットとローレンシアが現れて。
募兵活動だ。
我こそはと思う物は名乗り出よーと。
「来た! 来たよ!」
「おっしゃ、稼ぐぞー!」
「おおー!」
ユッタ、イェンナが息巻いている。
フェドラが握り拳を突き上げた。
ティルアやレーネも頷いて見せる。
「じゃ、じゃあ、俺達も」
「えっ、マジで?」
「危なくない?」
ガイゼル達が名乗りを上げるのだが。
同チーム内でも反対意見が上がる。
ヒーラーがラーナだけ。
危険だとジノ・ベデリアの主張。
んでも儲かるし、とサスキア。
借金が話題に上り、一同暗い顔。
共闘を申し出る。
子供達の前に回ってくれるなら。
それなら、こちらも援護をする。
俺も治癒魔法を使えるし……どうか。
「そ、それなら、まぁ……」
「こちらこそ、頼んで良いか?」
話が纏まった所で、移動を開始。
敵は北門前に布陣したのだが。
これがどうやら囮だった。
別動隊が南に向かっているらしい。
神人を中心とした自軍本隊は北。
急には転進できない。
手薄になった南門。
守りを固めるのは騎士団長。
俺達は、その加勢に向かう。
「あっ、凄い!」
「かっけぇー……」
途中、女性ばかりの騎兵隊が通った。
公主直属の近衛隊だろうか。
なるほど、ユッタが憧れるだけある。
凛々しく美しい集団だった。
南門を出る……と、見知った顔。
「もしや、そちらハイン様!?」
「おっ、旦那じゃないすか」
旧友マグダレーナとイェルマイン。
この世界に来ていたんだったか。
「あ、あの、近衛の方ですか?」
「わー、美人だぁ〜……」
「えっ、私? へ、へへへへ……」
マグダレーナ、でれっでれ。
ちょっと褒められただけで、チョロい。
イェルマインがニヤニヤ小突く。
気が付いて、ごほん。咳払い。
「嬢ちゃんら、レベル高いねー」
「えっ、あ、ホントだ」
イェルマインの賛辞。
次いでマグダレーナが解析魔法。
レベル10前後の子供達に感心する。
子供達は得意げだが。
2人はレベル60台の先輩勢。
そんなお前達でも感心するのか?
一般的NPC兵士は消耗品だという。
コンクエスト、戦争系プレイヤー。
とても育てる余裕が無い。
仲間にすれば経験値が分散する。
死ねば蘇生コストも高い。
蘇生の成功率自体も高くない。
で、どうせ死ぬのだから?
高い装備を持たせない。
レベルが上がる前に大体死ぬ。
そいつは悪循環だな。
戦争の度に雇って壁にして。
死なれては買い足して、か。
どこでレベル上げたか?
そりゃあ戦場以外で。
「まぢですか。
帰ったら兼業冒険者始めます」
「あああ、あん時死なせちまった子なー。
勿体なかったよなー……」
タソガレている場合か。すぐ始まるぞ。
募兵官の所で登録を済ませる。
イェルマグ兄妹は輜重隊で兵士を雇う様だ。
「そんな、私達だって……!」
「いいから後ろで……
あっ、ちょ、ちょい待ち」
サナトスとステラさん達?
揉めていると思ったらこっち来た。
サナトス隊も傭兵を雇う。
ルキュアさんと雇った騎兵で隊列を組む。
で、新人従者ステラ達をどうするか。
お嬢様階級出身。鍛錬不足。
戦場を連れ歩くには不安であり……
で、こっちに混ぜたいのかよ。
預かるけど、貸しにしておくぞ?
「あの……大丈夫とは思いますが。
気を付けてあげてくださいね」
マグダレーナから心配の声。
こちらを見渡し、複雑そうな顔。
そうだな。危ない事には変わらない。
気を付けよう。
「総員、進めぇーっ!」
程なくして騎士団長の号令。
戦端が開かれた。
騎兵集団が敵目掛けて前進していく。
俺は左前方の丘を登る。
雁行陣形が2列。
敵側にガイゼル達。
緊張した横顔が見える。
大丈夫、使い捨てないよ。
盗賊ジノ、期待してるぜと苦笑い。
信じてます、と女司祭ラーナ。
槍使いの戦士トリットも。
ビビっててスマンと謝罪。
隠密と加速、防御、障壁魔法を展開。
総員、速度上げるぞ。
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