黒鷲の旅団
6日目(7)格差
戦後処理。給金の配布。
輜重隊の前に列が出来るが。
中には少年兵の姿もチラホラ。
イェンナの仲間以外にも居る様だ。
少年兵の存在。
それ自体、寄せ集め軍隊には付き物だ。
中世じゃ市民・農民からも兵士を集める。
職業軍人なんて騎士とか城勤めぐらい。
しかし待遇も寄せ集め相当。
そうだ、給金問題があったな。
傭兵基本給。
子供だから半分、育ちが悪くて半分。
イーディスも憂慮している様だが。
より良い兵を集める為でもある。
実情は簡単には変えられない様だ。
ユッタ達は、俺の従者。
一応の身分証明がある。
子供だからの半減までに留まっている。
エリック達も引き込めたら良かったが。
ふと、ノイエとカーチャの姿。
小銃を返しに来たのか。ありがとう。
イェンナ達について聞かれる。
どんな条件で雇っているかって?
上納金は免除。
代わりに弾薬や矢束は自分で買う事。
貯めておくとか残すとか。
お金の使い方も練習させる。
どうしても足りなきゃ助けてやるけど。
俺のメリット?
援護射撃を受けられる。
採集も索敵も人数が居るだけ捗る。
つまり働きぶりで返して貰っている。
それ以上、どうこうするつもりは無いし。
俺が楽出来る。
その分、同程度の生活は保障する。
ちょっと良いかも、とノイエ。
ケントーしてやるよ、とカーチャ。
まぁ、前向きに頼むよ。
募兵官ヘイゼルさんに給金を貰う……
と、増えてる?
功績や階級からボーナスが出ている様だ。
鉄等級の冒険者でも1万プラス。
ユッタ達もホクホク顔。
しかし、どこも同じ様には行かない様で。
「返して!
お願い、返して!」
「うわああん、チクショウ!
チクショウ!」
少年少女兵の泣き声。
上納金トラブルだろうか。
少年が神人に殴り掛かる。
派手に蹴り飛ばされる。
挙句、トドメと剣を抜いて。
露骨に振り上げられる物だから。
俺は思わず割って入ってしまった。
「何だぁ、テメェは」
返事も待たずに斬り掛かってくる様子。
距離を取りつつ解析。
自由騎士フルンツベルク。
レベル56と格上ではあるが。
おいそれと殺されてやる訳には行かん。
速射で加速魔法。
並列、両手に転移魔法付与。
横薙ぎを掻い潜って掌底。
俺の右手を相手の腹へ。
振り上げた相手の右手にと俺の左手。
腕を潜って前へ抜ける。
瞬く間に転移魔法が発動。
相手の鎧とガントレットが消えた。
フルンツ、キョトンとした顔。
次いで大慌て……
それなりのレア装備だったか。
返してやっても良いが話ぐらい聞け。
上納金はともかくとして。
殺すのはやり過ぎだ。
「はぁ? 思い出したぜ。
ガキ連れたアレか。
ヒーロー気取りかあ?
この死体剥ぎ風情が。
ゲームで良い子ぶって楽しいか?」
そう、ゲームの世界、だとして。
なりたい自分になれる世界のハズだ。
死体から剥ごうがヒーローになろうが。
俺がどうするかは俺の勝手だろう。
「ギャッハハハ!
イイね、イイ事言った!」
もう1人、神人の傭兵。お仲間か。
自由騎士アルビオン。
コイツがレベル171と来たモンだ。
何が琴線に触れたか機嫌は良さそうだが。
さて、どう交渉したものか。
思案していると。
「オーケー、オーケー。
目を瞑るのもお互い様だ。
ガキ共ちゃんは見逃しましょ」
「お、おい、アルビオン!」
「ぁあん?
負け犬が何つった?」
「い、いや……何でもない……」
力関係はハッキリしている様だ。
転移魔法コールストレージ。
奪った鎧とガントレットを返してやる。
上機嫌のアルビオン、輜重隊へ。
しょんぼりフルンツベルク。
その後ろに死んだ目をした女従者2人。
鎖で繋がれた捕虜達が続く。
あっちの扱いも気になるが……
今、見逃して貰っったばかり。
まだ食い下がる余力は無い。
それより、蹴られた子。
手当てを……大丈夫か?
診察。骨や内臓は大丈夫そうだな。
治癒と鎮痛魔法。お大事に。
「あ、ち……治療費……!」
「あっ、やべぇ!」
要らないよ。そんな顔すんな。
途端に明るくなる少年兵達。
ありが、と言いかけて。
彼らの腹の音が被った。
ああ、うん……金は要らないが。
ちょっと来てくれるか。
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