黒鷲の旅団
6日目(8)それぞれの事情
支援にも限度はあるが。
それでも、せめて食料ぐらいは。
少年少女兵を輜重隊へ呼ぶ。
一言で言ってヒョロガリ。
見るからに食べられていなさそう。
土産にパンや小麦袋を配って渡す。
と、その一部。
ご主人様まで連れて来た子が居て。
神人傭兵のランカーか。
診察スキルが空腹状態と告げる。
自分も飢えてる様子。
子供の虐待でもないのだろう。
エリック達は……世話にはならんと。
自分達なりのプライドがある様だ。
少々心配だが。イェンナから。
あたしらの仕送りがあるからさ、と。
まあ、食えてるだけ大丈夫か。
北区の孤児。
グンター、リュシアン、メリカ。
南区の孤児。
フィン、テッド、カリカ、サフィラ。
ランカー氏、
と、雇用契約中のローダとテクラ。
それぞれ土産を持たせる。
機会があれば共闘でもしよう。
「な、なあ、あんた……
儲かってるか?」
ランカー氏に金を無心された。
100万せびられるので、110万渡す。
返さなくて良い。
ただ、使い方に注文を付ける。
あんたと子供らで10万、10万だけは。
装備なり飯代なりに使ってくれ。
他の孤児達にも20万ずつ持たせて帰す。
孤児院の足しにでもしてくれ。
そうだ、公主に質問。
捕虜の扱いについて知りたい。
およそ戦利品扱いになっているらしい。
所有物、か……
口を出すと交戦に発展しかねないな。
少年兵ナケナシ従軍手当カツアゲ事件。
耳に入れるや公主様、お怒りに。
「ちょっとぉ、何それ! 信じらんない!
あんた何でもっと言ってやらないのよ」
何気に、こっちにまで飛び火した。
レベル21風情に無茶言わんでくれ。
「うっ、そ、そんなモンだったっけ?
あ、じゃあさ、一緒にご飯どう?
そっちの話も聞かせてよ」
と、イーディス公主。
食事に誘われるのだが、辞退。
女将がご飯作って待ってるから。
またの機会に。
「そっかー、残念。また今度ね」
「ハーちゃんは義理堅いのねぇ」
城に興味があったかな。
ユッタやイェンナは残念がるのだが。
他方、フェドラやペトリナ。
ホッとして見える。
それじゃ、分担だ。
マリナはレーネ、ペトリナと自宅へ。
他の子は下層区の教会へ。
それぞれ仕送りの金を置きに。
済んだら、東区の酒場で昼ご飯だ。
子供達を先行させ……女将に通信魔法。
ぼちぼち帰ります。
昼ご飯の用意をお願いします。
「あれ、作ってるんじゃなかった?」
ポケットにトゥーリカ。
残っていたのを忘れていた。
お前にだけは事情を話しておこうか。
実際の所、女将は口実だ。
子供達を公の場に連れ出したくない。
亜人差別が残っている。
吸血鬼ハンターの件も解決していない。
その上、貴族の中へ。
どんな難癖をつけて来るか。
幾ら、俺にとっては自慢の教え子でも。
「えー、そんなの。
ちゃんと話せば分かってくれるよ。
ワガママ言う子達じゃないでしょ?」
ユッタ達はそうなんだが……
イーディスの方だ。
子供達が虐められてる。
優しい公主様は怒るだろう。
下手に揉めると立場が悪くなる。
誰も困らない為に。
今はコッソリ距離を取りたい。
「色々考えてんるんだ。
でも、隠し事は良くないっ」
まあ、そうだな。
後で話そうか。
マリナ達を追って、ベラの家に寄る。
ベラさん、マリナを抱きしめて号泣。
いつも危ない事させてゴメンね、か。
責任の一端は、俺も感じなくはないが。
ベラさんに少し事情を聴いた。
元は貴族の三女。
お屋敷でメイドをしていた。
お屋敷の次男坊と恋に落ち、駆け落ち。
しかし、旦那の商売が上手く行かず借金。
旦那は冒険者になり、程なくして死亡。
残ったのは借金と、娘のマリナ。
ベラさんは稼ぐ為、娼婦になったと。
俺からも少し出す。
一緒に借金を返しに行く。
金貸しはボルジャー氏。
下層区と中層の間ぐらいに店を構えていた。
「最近、羽振りが良いじゃねぇか。
物好きな客でもついたのかね」
急に金が出来たものだ。
金貸しのボルジャーに訝しがられた。
犯罪とかじゃないから。
何か足がついたりはしないぞ?
「ふうん? ま、金は金だ。
追及はしないがね」
現状、返済期限こそ凌いでいるものの。
借金はまだまだ残っているらしい。
一体あと幾らなんだ、ボルジャーさん。
書類も見てみたいと言っておく。
これからも付いて来て良いかとマリナ。
マリナをお願いしますとベラさん。
レーネとペトリナも、引き続き頼むぞ。
ドリスの店で矢弾を補充。
酒場に足を運ぶと、良い匂いがしてきた。
レーネとマリナがすんすんすんすん。
自然と足早になって……ああ、腹減った。
女将さん、ただいまー。
食卓を囲んで話をする。
トゥーリカ様の言い付け通り。
お城ご飯を断った理由を話す。
もっと認められないとね、とユッタ。
女将のメシも美味いからね、とイェンナ。
また頑張って実績を積んで行こう。
また頑張る……そこで、だ。
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