黒鷲の旅団
6日目(12)2人ぼっちの決断
「だって、おじさま。
まだ私の本当の姿を見ていないんです。
見たらきっと、軽蔑します。
化け物だって」
酒場で夕食後。
レーネに話を聞いた。
故郷を焼き討ちされたレーネ。
その時、吸血鬼の血が覚醒したという。
血を浴びて力を増す。
更に血を求めて高揚して。
周囲の敵を殺し尽くした。
やがて我に返り、怖くなった。
確かに、見てもいない物だ。
簡単に大丈夫とは言えないが。
それでもレーネはレーネなんだろう?
「興奮して、自制が効かなかったんです。
また、同じ事が起きてしまったら。
おじさまや、皆を傷つけてしまったら」
生命の危険を感じて覚醒。
更に、血を口にして暴走状態に……か。
「私、おんなじかも」
聞いていたフェドラ、割り込んで来た。
半魔人、吸血衝動は無いものの。
危険を感じて暴走した事があると言う。
「一回、変身しちゃった事があって。
魔法みたいのが、どかーんって。
みんな無事だったから良かったんだけど。
後になって、みんな。
フェドラは怖いって……言ってて」
途中で悲しくなってしまった。
泣きそうになるフェドラ。
俺とレーネが撫でつけて落ち着かせる。
お前は優しい良い子だよ。
いつもにこにこフェドラさん。
その正体が、それか。
怒って見せたら怖がられてしまうから。
発動条件さえ避けられたなら。
普通に暮らせないだろうか。
レベルだって上がっている。
発動しても、精神力や何か。
上手く抑え込めれば良いんだが。
しかし心配は力そのものだけではない。
対外的な印象も気になっている様だ。
神聖教会が疎む、化け物の様な存在。
市民に被害が出たら街に居られなくなる。
何かあったらその時は。
自分達の事は捨ててくれて良いと。
そんな事にはしたくないな。
また魔女協会でも対策を探してみよう。
「うん……でも。
その時はその時だよー」
「大丈夫。
フェドラさん1人では行かせませんから」
どうも決意は固い様だ。
独りぼっちじゃないのは、せめてもだが。
2人ぼっちでも、やっぱり悲しい。
とりあえずは落ち着いている。
すぐにどうなるでも無し。様子を見よう。
目下の課題。手近な知識から吸収する。
フレスさんが選んでくれた本がある。
『魔法医療中級編』より。
止血魔法というのがあった。
造血魔法と併用、生残性を高められる。
興味深いのは、派生。繋がり。
止血は凝固と造血からの派生だという。
派生魔法を探すヒントになるか。
『闇魔法入門』より遮光魔法。光を遮る。
閃光系魔法をカットできるのか。
それと、黒煙魔法……煙?
阻害系だろうか。
節制発動で少し試す。煙。
物質の燃えた末端といった煙だ。
視覚的な阻害の他、呼吸も妨げるだろう。
『魔女の薬』から。
これは調合レシピだな。
調合・薬学スキルに経験点が入る。
そういう手合いの指南書もあるらしい。
『魔女と騎士』は1章読み進める。
ライバルに忘却魔法を使うかで葛藤。
調香魔法を使う美人の先輩に憧れたり。
変身魔法に失敗、元に戻れなく……おい。
この娘、主人公、大丈夫なのか。
魔法のネタもそうだが。
主人公の動向が心配になる。
忘却魔法、変身魔法。
有効そうではあるのだが。
覚えた魔法を、誰の為、どう使うのか。
子供達にも魔法を教えている。
よく話し合わないと。
俺なら、どう使うか……
変身に変身魔法掛けたら誤魔化せないか。
でも、元に戻れなくなったら困るなぁ。
あるいは忘却魔法。うーん。
忘却、記憶を書き換える魔法、だ。
目撃者の口を封じるか。
しかし、後で思い出すのでは意味が無い。
やり過ぎて人格崩壊とか……ううーん……
試してみないと分からん事が多いが。
試すには怖い事も多い。
いずれザコ敵とかで実験しようか。
『おっちゃん!
おっちゃん、助けて!』
不意にイェンナから通信魔法。
何があった! 怪我は?
……ん? お前でなくて?
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