黒鷲の旅団
6日目(15)遭難孤児救助隊
〜誰も欠けずに〜

 ペトリナの容体は安定。
 むしろレーネとフェドラが心配だ。
 ひとまず鎮静魔法が要るだろうか。

 興奮状態が冷める。
 姿も次第に元に戻って行く。
 ああ、そういう物なのか。

「ご、ごめんな!」
「痛かった?」
「お姉ちゃん、ごめんね……」

 孤児達が集まって来た。
 口々にペトリナに詫びる。
 危ない事をして、とシスターのお叱り。
 シュンとする孤児達だが。

 話は帰ってからにしないか。
 不死者の復活サイクルが分からん。
 長居したくない。

 少年少女をドリスの馬車に詰め込んで。
 俺はユッタとイェンナに手ぶりで合図。

 2人は駆けて行って。
 フェドラとレーネの前に立ち塞がる。

「へへ、行かせないよ」
「正体が何だって、もう仲間だもんね」
「でも、おじさまが何と言うか……」
「止めろつったの、おっちゃんだぜ?」

 レーネとフェドラ。
 2人の脚は、皆とは逆を向いていた。
 そっと立ち去ろうとしていただろう。
 正体を、魔の部分を見られてしまった。

「あ……あの、おじさま……」
「ドン引きだよね、あはは……」

 戸惑うレーネ。
 悲しげに笑うフェドラ。

 魔物っぽい姿?
 まあ、カッコ良かったぞ。

「そーだよ。カッコイイじゃん」
「2人が居なくなったら嫌だよ……」

「でも、あんな姿。
 街に居られなくなったら」

「い、い、いざとなったら!
 私の使い魔だって、言うからっ!」

 鼻息荒く、サンドラちゃん決意表明。
 使い魔は主人が同行すれば街に居られる。
 これにはフレスさん達も微笑むのだが。

「そうなると、いよいよ試験だね」

「人型の使い魔を持つんだ。
 正魔女にならないと」

 おじょじょ!?と慌てるサンドラちゃん。
 評価ユルユルにしますよとフレスさん。
 対外的な所はサンドラに期待したい。

 2人の暴走の方も、懸念は残るが。
 仲間の容体を気にして我に返ったんだ。
 コントロール出来ると信じよう。

 回復したペトリナが抱き付いて。
 レーネとフェドラが感涙。
 とにかく皆、無事で良かった。
 無事で良かったが、反省点もあるなぁ。

「あの……あのっ!」

 駆けて来たのは赤い髪。
 マルカだったな。
 用があるのはレーネとフェドラ?

「姉ちゃん達、黒竜なのか!?
 あた、あた、あたし火竜なんだ!」

 見ればマルカ、頭に小さな角。
 背中にはコウモリ状の翼。
 ドラゴンさんなんです、とカリマ。
 ドラゴンメイド、半竜人という奴か。

「私達はその、竜人ではないのですけれど」
「ええっ……な、なんだ。そっか……」
「でもほら、仲間。変身仲間だよっ」
「あっ……う、うん! 仲間! 仲間だな!」

 カリマが耳打ち。
 マルカの種族を伏せた理由。
 レア種族だから。
 知られるとハンターに命を狙われる。

 レア種族、か。
 やっと仲間が、と思ったのだろう。
 レーネ達、同族でなかったのが残念だが。
 共通点のある仲間を見つけた。
 マルカは嬉しそうだ。

 さて、帰ろう。みんな無事か?
 子供達、冒険者、魔女。
 神父達、商工会チーム。

 あとは……アルラウネ。

「人間さん、また助けてくれた!」

「ずっと忘れない。
 私達、きっと恩を返す!」

「アキレアとホタルブクロ。
 ヘリオトロープの名の下に!」

「名の下にー!」
「下にー!」

 集まるアルラウネ達。
 フレスさんに習って花人と呼ぶか。

 その花人達だが、何やら決起集会。
 アンゼが茨の剣を掲げて。
 他の娘がそれに続く。
 アキレアにホタルブクロ……
 どれも花言葉は忠義か。

 門まで帰還する。
 と、花人達もついて来る。
 えーと……それじゃ、また今度な?

「えっ、あ、あうー!」
「ご主人、置いてかないでー」
「忠義、受け取ってくださいー」

 え、何、仲間になりたいと。
 騎士ごっこ遊びぐらいに思っていたが。
 しかし魔物娘。街に連れて入るには。
 俺でも使い魔って持てるのか?

「あ、それでしたら。
 魔法系ギルドで審査が必要ですね。
 必要な称号を獲得すれば権限も付きます」

 審査、受けようか。
 どこが良いか。

「ハインたんを他のギルドに取られる。
 何か、癪だね」

「癪だねぇ……
 明日まで待って貰えるかな」

 ヘリヤとシャンタルが何か画策する様だ。
 花人達の身柄は預かってくれる。
 ここは頼らせて貰おう。

 夜も更けた。みんな、また明日。
 誰も欠けずに、また明日、だ。



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