黒鷲の旅団
6日目(16)何がどうしてアンゼさん
はあ……まったく、ギリギリじゃないか。
接続を解いた俺は、思わずボヤいていた。
レーネとフェドラが残留。
ペトリナも死なずに済んだ。
エリック達からも死者は出ていない。
ないのだが、一歩間違えれば危なかった。
そんな局面が多い。
もう少し救助が遅かったなら。
昨日アルラウネを助けていなかったら。
感電に中和魔法と思い当たらなかったら。
マルカがそこに居なかったら。
それらのピースが1つ抜けたとして。
危険度がどれだけ増していたか。
ギリギリだったが。
まあ、みんな助かって良かった。
酷く喉が渇いていた。
コーヒーでも淹れよう。
コーヒーを啜りながら、状況を纏める。
まず、こちら側。現実世界の状況。
ラーティカイネンの情報端末について。
解析はあまり進んでいない。
情報部は他にも仕事がある。
そこへゲーム会社の調査などと。
緊急性を主張し難い。
片手間にならざるを得ない。
そこへ来て、暗号解読が難解だと。
何重にも圧縮されている上。
何重にもロックされた情報の塊。
約2名パズルマニアが燃えているが。
それ以外はサジを投げたに近い状況だ。
気長に待つしか無いなぁ……
あちらの世界の状況は。
サンドラの試験が控えている。
マルカが竜人族。
フェドラ達とは仲良くなれそう。
花人達が使い魔になる。予定。多分。
子供達は引き続き指導するとして。
こちらからあちらに何か出来ないか。
課金……あまり実用的ではないか。
情報なら。情報を集めておく。
記憶を共有する。
あちらの俺は情報を活用できるハズだ。
攻略系のサイトを探してみる。
次々に見つかるのだが。
テンションは下がる一方だった。
『NPCを盾にする』
『NPC囮戦法』
『NPCを使ったお金増殖法』
『黒魔術の生贄に適当なNPCを云々』
NPC、あちらの世界の住人。
それを死なない様に育てる。
そういった記述に出会えない。
攻略記事探しは置いておこう。
敵を知らず己を知らざれば……何とか。
高名な軍略家の教えだとグレッグに聞いた。
己を知るのも戦いの足しになるだろう。
己を、自分達を知る。
子供達は何の魔法を覚えたか。
レベルやパラメータ。
どれぐらいになったのか。
ユーザー用のデータ画面があったハズだ。
従者のパラメータを表示してみる。
従者隊。サンドラやユッタ達。
治癒、通信魔法を完備。
特にレーネ、フェドラ、ティルア。
攻撃・阻害魔法あり。
マリナに防御魔法。
ペトリナに解毒魔法がある。
サンドラはいよいよ魔女らしく。
細かい魔法を多数保持、と。
それぞれ頼りにしたい。
紹介画像も更新されている。
装備が反映されている。
フェドラ、ボロ着でなくなった。
良かった。と、順に見て行くと。
またボロ着の姿が出る。
従者……従者候補。
カーチャ、ノイエ、マルカ。
『勧誘中』の表記がある。
子供達のアプローチの成果か?
仲間になるのかな。
なったらまた装備買ってやらないと。
順にパラメータ、持ち技を確認して。
アンゼリシアのページに至る折。
急に音声。
『あーう。ご主人〜』
はて、どこかクリックしてしまったか。
紹介画像が手を振っている。
そのまま眺めていると、喋る喋る。
『ご主人、良い人〜』
『私、きっと役立つ』
『恩義に報いるー』
……喋り過ぎか?
変なボタンを弄った覚えはないが。
別のページから戻ると、また喋る。
マニュアルを眺めるが……
自動お喋り機能なんて説明は無く。
ただ、クリックするとセリフを言う。
そういう記述はある。
何かの接触不良かな。
端末とキーボードの接続を確かめる。
確かめる為に腰を上げて……
俺は目を疑った。
ブラウザの中。
アンゼの目が俺を追った。
右へ、左へ動いてみる。
確かに追って来る。
おかしい。何故だ。
端末のカメラ機能は切っていた。
更にアンゼの言う事には、
『こっちのご主人、若いなー』
コンバート前のキャラメイク。
若干老け顔に作っていたと思う。
しかしそんな事を説明した覚えは無いし。
どこにも設定年齢なんて書いてない。
アンゼはそれをどこで知った。
端末のカメラ機能は……確認。
切ってあるままだ。
何がどう、何故にアンゼだけ。
試しに手を振ってみる。
笑顔で手を振り返して来た。
他のステータス画面、子供達は……
固定されたセリフを言うだけだ。
動いて見せた所で、視線の移動も無い。
アンゼ、ブラウザを閉じれば黙る。
開けば元気にしている。
実害はないので、一旦このままに。
明日、他のユーザーにでも聞いてみよう。
じゃあ、えっと……
アンゼ、また明日な。
『あ〜う〜♪』
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