黒鷲の旅団
7日目(9)1つまた1つと手を取って

 壊滅した村の子供2人。
 名前はツェンタとアイリス。
 ツェンタがハーフ・ドライアード。
 アイリスは純血のエルフだという。

 村が魔王軍に襲われた折。
 2人は秘密基地に隠れていたらしい。
 秘密基地。さっきの洞窟か。

 魔王軍は1週間ぐらい滞在して行った。
 ツェンタ達は途中で食料が尽きた。
 一緒に隠れていた大人達も死んでいく。

 で、一度外に出ようとしたのだが。
 カトレアンナさんと遭遇。
 ビックリして引っ込んだ。
 これが3日前の出来事。
 その後、空腹で動けなくなり倒れていた。

 アルラウネさんも助けようとしてくれて。
 知るやツェンタとアイリス、感謝と謝罪。

「怖がってゴメンナサイ」
「良いアルラウネなんだ?」

「元気なって良かた。
 子供は等しく世界の宝なー?」

 カタコトなりに難しげな事を言う。
 カトレアンナさん。アルラウネ。
 知能が低いとかではなさそうだ。

 さて、ツェンタとアイリスだが。
 村が壊滅した今。
 頼る当ては……無いか。

 ツェンタは昔、首都で暮らしていて。
 両親の死後、差別に耐え兼ねて転居。

 アイリスは視力が弱く、弓が下手。
 エルフの故郷で馬鹿にされた。
 人間の街でも差別されて。
 安住の地をずっと探していたという。

 この村はマシな方。
 差別はあっても石は飛んで来なかったと。

「ホントに村、無くなっちゃったんだ」
「少しは良い奴も居たんだけどな……」

 ションボリした顔の2人。
 一緒に行こうよ、とユッタが声を上げる。

 半亜人にエルフ。
 教会に庇護を求めても、結局は差別。
 だからと自分で生きて行くにしても。
 力を身につける必要がある。
 うちの子供らの輪に入れて育てる。
 これが確かに手っ取り早い。

「おっちゃんの許可はー?」
「あっ、い、良いよね?」

 イェンナに突っ込まれるユッタ。
 俺は勿論だけれども。
 他の子も特に反対意見は無いな?
 似た様な境遇の仲間が多い。
 本人達も気に入った様だ。

 村内を探索。
 武器らしい物は無いか。

 ツェンタとアイリスの装備を検討。
 ひとまずボウガンを持って貰う。
 道中、倒した盗賊から回収した物だ。
 小型で、取り回しはともかく火力不足。
 街に帰ったら軍用のを買ってやりたい。

 配置はレーネ達の後ろへ。
 弩兵隊に就いて下さい。

「やった! 綺麗なお姉さんチームだ!」
「ブフッ!? げほごほ!」

 賑やかなのは良いが。
 レーネ大丈夫か。むせた?
 ティルアやイェンナがケラケラ笑う。

『おおーい、聞こえるか?』

 パラディオンから通信。
 公主から俺達の場所を聞いたか。
 どうした?

 魔王軍からボス格が出て来た。
 反撃を受け、押し返されている。
 進路に居るなら避退しろと。
 分かった。速やかに移動を開始する。

 首都へ直進する、のはマズいか。
 背後から敵が当たる可能性がある。
 一旦、東側に抜けよう。
 迂回して街を目指す。

 さて、人数が増えたので。
 引率役を任命します。

 銃士隊はユッタを隊長。
 イェンナを副長に。

 綺麗なお姉……弩兵隊。
 レーネ隊長、ペトリナ副長。

 弓兵隊はマリナを隊長として。
 フェドラが副長。

 腕自慢のマルカは怪訝な顔をしたが。
 マリナの腕前も見ている。
 反対はしない様子。

 むしろマリナの方から進言。
 マルカちゃんのが良いと言う。

 しかしマルカ、戦闘経験者だが。
 隊列を組むのは初めてだろう。
 今少し攻撃に集中させてやりたい。
 隊長には慎重さも必要だ。

 各隊長は周辺警戒、俺との連絡を。
 副長はチーム内部を見てくれ。
 不調者が出たら言う様に。
 内部、隊長が不調でも、だ。
 マリナ、フェドラもフォローする。
 呼んだら俺も見に行くから。

「うん、でも……私で大丈夫かな」

「大丈夫だよ。
 マリナちゃんなら出来るよー」

「まっ、マリナも強いからな。
 その内あたしにも役目をくれよなー」

 そうだな。マルカも頼りになるからな。
 何か考えてみるとしよう。

 サンドラとトゥーリカは俺の直営。
 状況次第で各隊の援護を頼む。

 それから……花人さんチーム。
 カトレアンナは編入で決まりの様だ。

 隊列組んでから、良いよなって。
 まあ、良いけど。
 従者の首輪を持っていない。
 人の居る集落に行った時は……

 ……って、サンドラちゃん。
 呼びを持ってると申告。
 レーネとフェドラ用。
 緊急時の備えだが、借して貰う。

「ヤバイよ!
 来たよ、敵が来たよ!」

 トゥーリカの報告。
 探知魔法を覚えていたか。
 脳内表示に赤い点が多数。
 魔王軍らしき敵反応が迫っている。
 急ぎ脱出しよう。全員駆け足!

 行き掛けに、と。
 廃屋に衣類代を放り込んでいく。
 20万。金貨2枚。
 釣りを計算している場合じゃない。
 ユッタとカリマの呼ぶ声。
 分かってる。すぐ行く。

 っと、コショウ代を置き忘れてしまった。
 また今度、立ち寄る機会があれば良いが。



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