黒鷲の旅団
7日目(10)クロアシおじさんって誰だ?

 急いで村を離れ、丘を駆け上がる。

 再び探知魔法。敵は。
 敵を示す赤い点が帯状に迫る。
 廃村は瞬く間に飲み込まれている。

 状況も気になるが。
 見ていて見つかっても困る。
 隠密魔法を展開、足早に離れよう。
 病み上がりのツェンタ、アイリス。
 バテ気味。花人達が背負ってくれる。

 東へ。探知可能範囲ギリギリに到達。
 赤い点は……こちらには向かって来ない。
 しかし油断しない様に。

 1つ東の集落へ向かう。
 が、既に壊滅していた。

 キマイラが闊歩している。排除だ。
 閃光魔法を中心に阻害。
 胴体の獅子頭が怯む。

 しかし動き回る。
 頭が3つあるのか。
 モゴモゴ言ってる背中のヤギ。
 魔法使うよとサンドラちゃん。
 危険だ。速攻で潰しに掛かる。

 尻尾の蛇頭が毒を吐く。
 水蒸気魔法の水気で拡散を防ぐ。
 あとは遠射主体にトドメを刺そう。

 キマイラ沈黙。
 蛇が毒蛇らしく、食用には向くまい。
 が、サンドラちゃんは解体を希望。
 魔女の薬の材料になる様だ。

 キマイラを片付け、もう1つ北の村へ。
 残念。こちらも半壊状態。

 湖畔の村、元は綺麗だったろうに。
 今や見る影も無い。
 魔王軍、手広く襲撃して行ったらしい。

 全滅を免れているが、それが逆に辛い。
 残った村人が貧窮している。
 配給でも考えようか。

 オオカミ肉、ボア肉でスープを作る。
 アンゼさんは魔法でジャガイモを生やす。

 カトレアンナも使っていたが。
 その魔法は? 曰く、農耕魔法だと。
 作物を生やし土壌を改善するらしい。

 俺も農耕魔法を教えて貰う。
 イモやトマト、カボチャを生産。
 村に提供する。

「神人様! 天の恵みだ!」
「やった、メシだ!」
「2日ぶりのメシだぞ!」

 天の恵みかは知らんけれども。
 軒並み好評……好評だよな?
 輪に入って来ない子供が2人居る。

 尖った耳は半亜人だろう。
 声を掛けてみる。

「え、あの……でも……」

「あのね、えっと。
 食べたくないとかじゃなくて」

 ハーフ・ニンフのテルーザ。
 ハーフ・マーメイドのエメリナ。
 ここでも差別があるらしい。
 人間の村人達が終わるまで、我慢。
 我慢するのが暗黙のルールだと。
 虐げられている感が否めない。

 そんな2人が語るには。
 村から連れ出してくれるのを夢見ている。
 誰かって、例えば……クロアシ団?

「吟遊詩人が歌って行ったんだよ。
 困ってる亜人はクロアシさんを探せって」

「神は冷徹、魔王は無慈悲。
 半妖少女に追手が掛かる。
 守るは癒しと銃と剣。
 罪無き子供を討たせはしない〜」

「名うての聖騎士怒れども。
 花手折らせぬはクロアシよ〜って。
 なんかね、鳥の陣形を使うんだって。
 何でクロアシ?」

 それは俺も聞きたいけれど。
 何だか微妙に心当たりがある話だな。

 保護するに吝かではないが。
 勝手に連れて行くと誘拐になる。
 村人に話をしてみよう。

「ああー、あれらが気になりましたか。
 あれでも大事な村の子でして」

 村長、シドロモドロ。
 大事にするなら仕方ないが……

「あ、ちょ、ちょっと!
 お待ちください!」

 引き下がろうとすると追って来る。
 どうした? 問い詰める。
 村が苦しいので代価が欲しかった様だ。

 連れて行くか否かで言えば。
 むしろ連れて行って欲しい?
 俺の事は奴隷商人とでも思ったか。
 価値を上げて値段を吊り上げようと。

 村の運営資金。
 これについては公主に直訴する。
 子供らの身柄はこちらで預かる。
 それで良いだろうか?

 子供を金で買うワケじゃない。
 村の援助と子供の勧誘は別だから。
 そんな念を押しつつも。
 金を100万、食料と共に置いて行く。
 テルーザ達に連れて行くと伝える。

「おじさん、もしかして……!」
「おじさんがクロアシの人?」

 どうかな。似た様な事をしているが。
 無条件で助けてやるのも難しい。
 自分の身を守る程度の事はして貰うぞ?

「知ってるよ! クロアシ団だよね!
 子供達が集まって戦うんだ!」

「なんか、もう、夢みたい……
 クロアシ団に入れるんだぁ〜」

 あー、うん……
 クロアシじゃなくて、黒鷲な。
 微妙に間違って伝わっている様だ。
 吟遊詩人とやらのせいか?
 今度探してみよう。

 簡単に身支度をさせる。
 持って行きたい物は……
 エメリナは形見のブローチ1つ。
 テルーザに至っては着の身着のまま。
 早く行こうと急かす。
 居辛い村だったと見える。

 自衛に武器は持たせたいが。
 残っている武器。
 飛び道具はボウガン1つだけ。
 あと短弓が少しあるが。

 エメリナはボウガンが怖い?
 弓を渡そうか。
 テルーザは腕力に自信が無い。
 それならボウガンを渡す。
 それぞれ該当部隊に参加してくれ。

 日は傾いて来たが、この村も貧しい。
 駐留するより、頑張って首都に戻ろう。



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