黒鷲の旅団
7日目(11)くらーし団?撤退中

 戻る時間を考慮し、足早に帰途に就く。
 日が落ちるとアンデッドが出る。
 少し急ごう。速度を上げるぞ。

 街道を行くと、子供が2人飛び出して来た。

「たたたた食べ物を、寄越、す……にゃ……」
「し、し、従わ……あ、あ、あわわ……」

 こちらを見て、段々に萎れて行く。
 人数や装備に驚いたのだろう。
 山賊風の……亜人種? 頭に耳がある。
 ケモノ耳と尻尾が可愛い、動物系の獣人だ。

 ……えーと?

「さ、作戦変更にゃ!」

「すいませんゴメンナサイ!
 食べ物をクダサイ!」

 今度は土下座。平伏。
 そんなせんでも。
 食べ物ぐらい分けてやるから。

「ほ、ホントにゃか……助かったにゃ……」
「もう3日も食べてなかったんだ……」

 ヘロヘロと崩れ落ちる2人。
 猫の獣人ジェマと、人狼だと言うフレヤ。

「ええ、じゃあ!
 あんたがハインさんにゃ?」

「やっと見つけた!
 群れに入れてください!」

 こちらの素性を知るや、2人は飛び上がる。
 俺が亜人を集めて私兵にしている。
 そんな噂が出回っているらしく。
 食い扶持を求めて追い掛けて来たらしい。

 予備武器、すぐ渡せるのは弓ぐらいか。
 それ持って弓兵隊に就いてくれ。

「後ろへ行け、だって」

「使い捨てるんじゃないって。
 本当だったんにゃ」

 そこは概ね本当だ。保障しよう。

 見ていると、何だ。
 そわそわと後方を振り返る2人。
 他に誰か居るのか? 連れておいで。

「い、良いかにゃ?
 もう1人、お邪魔して良いかにゃ!?」

 フレヤとジェマが、てててと走って行く。
 少しして、もう1人誰か担いで来た。
 見ると、義手・義足の女の子?

「ルーシャにゃん、しっかりするにゃ!」
「ほらほら頑張れ、ハインさん来たぞ!」
「う、う……すいませ……あう……」

 起き上がれない。慌てて起きなくていい。
 診断。空腹と衰弱。活力魔法。
 食欲はある様なので、干し肉を与える。

 欠損少女。名前はルーシャ。
 義肢のせいで長らく差別されていた。
 慈悲深い神人が居ると聞いた。
 藁にも縋る思いで会いに来た、か。

 ホント、どこも、そんななんだなぁ……

 俺を探して、行き倒れて。
 フレヤとジェマに拾われて。
 しかし食べ物が無い。ずっと無い。
 誰か襲ってでも……で、さっきのアレか。

「助かったにゃ。
 くらーし団に入ったらご飯貰えるにゃ」

「違うよ。くらーし団じゃなくて。
 クロアシ団だよ」

 だから、黒鷲団なー……

 ジェマも吟遊詩人に聞いていたらしい。
 吟遊詩人、見つけたら一回締めよう。
 広めるのは早いが、正確さに欠ける。

 ルーシャには持参の小銃があった。
 撃てないからと銃剣を付けている。
 調べたら単なる弾切れだ。
 弾薬パックを持たせて銃士隊に入れる。

 少し落ち着いた所で進軍再開。
 日陰を中心に、ぽつぽつと敵反応。
 アンデッドが顕現し始めた様だ。

 撤収を急ぎたいが、新人が慄いている。
 隊列が乱れて捕まるより良いか。
 綺麗に掃除しながら行こう。

 新人の装備は少しランクが落ちる。
 補助魔法、付与魔法を活用。
 新人を囲む様に魚鱗陣形で進む。

「居たぞ、旦那だ!」
「ふん、心配させよって」

 街の方からガイゼル、フリアリーゼ隊。
 戻るのが遅いので探しに来てくれたのか。

「まだ新魔法も貰ってないのに。
 急にどっか行っちゃうからさー」

「これで戻んなきゃ。
 公主様に抗議だよ抗議」

 ホウキに乗ったフッケバエナ。
 シャンタルも合流。

 新魔法。縫合・除細動魔法の事か。
 治癒系の派生魔法は珍しいのか。
 期待されている。

 そちらの情勢は?
 パラディオン達を押し返した魔王軍。
 結局、首都南門まで到達してしまった。
 公主様と近衛隊、騎士団で迎撃。
 再び撃退したらしい。

 あの分だとまた来るよ、とヘリヤ。
 敵公国軍と挟撃になるのか。
 留意しておこう。

 援護もあって、どうにか首都東門に到着。
 しかし衛兵に呼び止められる。

「使い魔の証が無い魔物は、ちょっと」

 使い魔の、ああ、首輪か。首輪なら……
 あれ、花人が増えてる?



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