黒鷲の旅団
7日目(14)他派閥の魔術
「す、す、すんませんっしたあああ!」
ロードメイア平伏。
その眼前に、腕を組んだムッツリ顔の公主。
「ホント、派手にやってくれたわねぇ。
魔王軍が戻って来たかと思ったじゃない」
公主の口角は上を向いて。
しかし目が笑っていない。
頬がヒクヒクしている。
大規模火災、未遂。幸い未遂だが。
城壁外の農地も脅かされていた様だ。
野生の薬草なんかも巻き込まれただろう。
公主様は心中穏やかでない。
「すんません、うちのおバカが」
後から来たパラディオン、陳謝。
ロードメイアの頭に手を置く。
更に下へと下げさせる。
メイアの横顔は……凄く悔しそうだ。
パラディオン達は魔王討伐が目標。
今日は魔王軍を追い込んで。
しかし一度押し返されている。
早く新しい魔法、力を見つけなければと。
何か焦っていたのかも知れない。
まあ、その……その辺で、な。
自分で気付いて、消火活動も手伝っている。
厳重注意で良いだろう、と口添えする。
「な、何であんたが、優しくすんのよう」
かえって屈辱だっただろうか。
泣き出してしまうロードメイア。
フェンリルとバスターが宥めてくれる。
「ご主人ー」
逃げて来ていた花人2名。赤系の花。
他に仲間は? 巻き添えが居ないなら良し。
ゼラニア・ゼラニウム
・ヒューベンタール。
アンスリーヌ・アンスリウム
・シューリヒト。
初見なのに、俺をご主人と呼ぶ。
これも花人ネットワーク。
花人達の情報共有が成せる業か。
2人はアンデッドと縄張り争いをして。
そこへメイアが乱入。
アンデッドは壊滅。
次々に標的を撃破したメイアだが。
とうとう的が無くなった。
で、花人まで追い回していたワケだ。
フェンリルから聞いた。
新魔法を探していたと聞いたが。
普段はどうやって魔法を作っていたんだ?
「えっ、そりゃあ。
とにかく色々ブッ込んでみて」
まさかのランダムエンカウント。
勘と経験に基づいた帰納法。
脳筋というか天才肌と言うべきか。
「あっ、で、でもでも。
考えて作ったのだってあるんだよ」
爆炎魔法。炎魔法を3発融合させる。
轟雷魔法。同じく雷魔法を3発。
数を集めて威力を大きく、という構成。
発動留保と詠唱発動。
あと時限発動で重ね合わせて……
ん? 俺と違う。
連射や速射、並列発動ではないんだ?
メイアさん、風体こそ魔女だが。
魔法系ギルドの所属は『魔術師ギルド』。
保有している秘術、発動方式が違うのか。
「なー! 連射とか並列発動って!
何それ、ズルイ!」
メイアさんも驚愕。
魔女の魔法発動方式を知らんかった。
2年越しのプレイヤーらしいのだが。
隠匿された、門外不出の秘儀。
何かそういう類なのだろう。
「おおお教えて! お願いします!
絶対、他人には言わないから!」
えー、うーん……俺の一存では。
大魔女達に通信、協議を頼む。
……と、ジズ様が既にお休みに。
対応してくれるのは大魔女様。
フリアさんにレイヴンさん。
『まあ、条件次第だと思うが』
『ハインちゃんは、どうしたいんだい?』
条件。あちらの技。
発動留保、詠唱、時限発動は欲しい。
俺が新魔法を探す上でも幅が広がる。
『ふん、仕方あるまい。
爆炎卿もよろしいか?』
「あ、ちょ、ちょっと待って」
爆炎卿、と呼ばれて狼狽えるメイア。
魔術師ギルドに連絡を取る様だ。
……が、どうやら渋られている。
メイアは明言しないが。
顔色がコロコロ変わる。
お金じゃダメかって? ダメだな。
特許申請済みの魔法? 自分で探す。
発動形式は個々の魔法より価値がある。
ふぐぐぐ、とメイア。
頭を抱えて捻じれる。
俺が話してみよう。
相手は大魔術師フリストスさん。
曰く、興味はあるが。
しかし内部の説得が難しい。
魔女に力をやるのを良しとしない。
そんな派閥もあるのだと。
なら、個人間で1つだけ交換ではどうか。
連射発動をやる。時限発動をくれ。
どうにか折れてくれて、互いに伝授する。
これで負けないからね、とメイア。
魔法探しは勝ち負けだろうか。
まあ、俺も特許料は欲しいけどな……
今夜見つけた魔法もある。
明日また魔女協会に出向こう。
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