黒鷲の旅団
7日目(15)どこまで行こうというのか

 接続を切った所。
 丁度インターホンが鳴った。

 時間制限を設定した接続。
 記憶データの早回し。
 便利だが圧縮された分、頭が疲れるな。

 部屋に集まったのは……多いな。
 妹フィロとサナトス、ロッシィ。
 バリー、グラディス、ヴィルヘルミーナ。
 あと、イェルマインは不在?
 マグダレーナは見に来た。

 マグダレーナの服装。
 リアルでもミニスカ&ニーハイ姿。
 脚フェチのサナトスがチラチラ見て。
 気付いたロッシィが小突く。

 ……マグちゃんの趣味?
 兄様の趣味だと。
 妹じゃなかったら抱きたくなるセット?
 イェルマイン、生殺しか。
 遊ばれてるなぁ。

 で、見に来た……そう。
 ブラウザ上のアンゼさん。

 妹の端末からも俺の情報を見て貰ったが。
 画像の視線は動いたりしなかった。
 端末のカメラ機能をオンのままで。
 逆にオフにしてみても、同じ事だった。

 で、俺の端末でユーザー画面。
 従者登録情報からアンゼさんを表示すると、

『あーう。ご主人〜』

 やっぱり喋る。手を振る。
 視線がついて来る。
 何だろうねコレ、というのが今回のお題。

「あはは、可愛い。こんな機能あるんだ?」
「てか、カメラ切ってるなんて嘘だぁ〜」

 証拠にと、カメラを指で塞いで貰う。
 俺が動くと……目が追って来る。

「えっ……ナニコレ、ガチで?」
「てっきりハーたんの妄想かと」

 詰め寄るバリーとグラディス。
 何が誰の妄想か。

「何で、こっち見えてる?」

 ヴィルヘルミーナのド直球な問い。
 答えるアンゼさんの説明。
 これがまた、よく分からん。

『私達のねっとわーく、とても優秀。
 思いは届くよ、どこまでもー』

 どこまでも過ぎないか。
 世界の枠を越えちゃってるぞ。

「ご主人様の義理の妹です。
 フィロメーラの名で活動しておりますわ」

「ヴィルヘルミーナ。よろしく」

 と、妹と同僚。1つ実験として。
 あちらの世界でまだ出会っていない者。
 ここで紹介しておく。

 これで、あちらの世界で合流して。
 あちらで初見でない反応をするなら。
 それなら、いよいよだ。

 いよいよ……世界が繋がっている、疑惑。

 勿論、トリックや演出とか。
 そういった線も否定はできない。
 魔法は無くとも機械文明。
 採り得る手段はある。

 例えば、今この部屋。
 小型盗撮装置が紛れ込んでいないか。
 それこそナノマシンレベルの。

 コピー側の俺の思考パターン。
 これも読まれている、かも知れん。

 電脳ハックを通して。
 誰かが俺達全員と会話しているとか。

 バカげた労力になる。
 なるが、絶対ないとも言い切れない。

 まあ、だとして困る程の話ではないのか。
 悪意のない愉快犯か何か。

 今の所、アンゼと話せる以外に変化は無い。
 侵入されているなら対策は必要だと思うが。

 一応、セキュリティ面の見直しだけする。
 口座残高の監視。
 室内熱源・電波類のスキャン。
 それ以上は対策のしようが無い。
 ひとまず様子を見よう。

「合流が楽しみですわ」

「マジの異世界かぁ〜。
 面白いんじゃね?」

 無責任に楽しんでいる妹、同僚達。
 お前らは他人事だから、気楽で良いなぁ。
 見送っていると、通信端末が鳴った。

 情報部、ウィンディさんから連絡。
 ラーティカイネンの情報端末の件か。
 やっとフォルダの1つが解析できたという。

 内容は、人間1人分の記憶データ。
 これが膨大な量。
 開封と解析に手間取った。
 あと、人体を構成する物質の量。
 それとDNAを変換したらしき数字の羅列。

 フォルダの中身が人間1人フルパッケージ。
 こんなモン、何だって隠してあったんだ。

 DNAの持ち主は?
 失踪したAIプログラマーだと。
 いよいよ事件性が出て来てしまった。

 記憶データは失踪前日で途絶えている。
 再生可能か?
 最後の1時間ばかり見てみたい。

 動画にして送って貰い、再生。
 記憶の主は端末に何か打ち込んでいる。
 数字の羅列。何かのデータか、暗号か。
 音声は……ボリュームを上げてみる。

『あんな物、異世界転生なものか』
『転送時の変換に失敗した』
『何人もが肉塊になって』
『ヤバイ。俺も消される。逃げないと』
『何かあった時の為に証拠を残す』

 聞き取れなくて何度も撒き戻した。
 大体そんな様な事を言っていた様だ。

 高圧縮された、人間1人分のデータパック。
 異世界転生、変換に失敗といった証言。

 つまりゲームの世界と思ったら。
 異世界だった……と仮定して。
 単にゲームの世界かも知れないが。
 そこに、生の人間を送ろうとしている。
 そういう馬鹿がどこかに居る?

 いよいよ突拍子が無いんだが。
 しかしこれが妄想なら。
 今ここにあるデータは何だ。

 プログラマーの打った数字。
 暗号と仮定して解析を頼む。
 あとは残したという証拠とやら。
 これをどうにか押さえられないか。
 件のゲーム会社への調査も必要?
 もう技術部じゃなくて治安部の仕事だな。

 異世界と行き来する、か。
 花人の想いにせよ、人間の欲望にせよ。
 どこまで届けば気が済むのやら。



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