黒鷲の旅団
8日目(1)お父ちゃん代理人

「早くっ、早くっ♪」

 俺を急かしてカリマが跳ねる。
 ぴょん、ぴょん、ぴょん、ぴょん。
 ぴょん、ぴょこ、ぴょん、ぴょん。

「早くぅ、早くぅ♪」

 俺の周りをティルアが跳ねる。
 ぴょい、ぴょい、ぴょい、ぴょい。
 ぴょい、ぴょい、ぴょこ、ぴょい。

 ぴょん、ぴょん、ぴょん、ぴょん。
 ぴょん、ぴょこ、ぴょん、ぴょん。

 ぴょい、ぴょい、ぴょい、ぴょい。
 ぴょい、ぴょい、ぴょこ、ぴょい。

 ……分かった。分かったから。
 分かったから、ちょっと落ち着けー?

 今日は朝食後、新人達の装備を整える。
 仕立屋で、旅の装いセットの手配。
 手配をしていたら、カリマ達が呼びに来た。

 マルカが故郷に仕送りを用意した。
 これを送金すべく配達屋に向かったが。
 子供が大金を持っているもので。
 はいたつやに怪しまれてしまった。
 誰か大人を呼んで来いと言われ……

 で、俺か。

 分かったから。
 支払いを済ませたら行くから。
 ぴょんぴょこストップ。
 そんな可愛く急かさない。
 可愛過ぎて誘拐されたら困るよー。
 おじさん泣いちゃうよー。

「あはっ! おっちゃん過保護〜!」
「カホゴー! きゃははは!」

 ウキャキャと笑う2人。
 笑い事じゃないんだがな……

「あっ、お父さんですか?
 お若いですねー」

「あんまガキに大金持たせるなよなー」

 配達屋に着くと、俺が怒られてしまった。

 えーと、マルカは?
 さながら借りて来た猫ならぬ竜。
 お行儀よくチョコンと座っていた。

 怪物退治は平気なんだが。
 子供扱いは居た堪れないか。

「ご、ごめん……
 あたしがチビなせいで」

 気にするな。
 俺の事は上手く利用してくれれば良いから。

「でも、ちょっと良いよな、マルカ」

「何がだよ〜。恥ずかしいし心細いし」
「いいじゃん。
 お父ちゃんが迎えに来たーみたいの」

「あっ……あ……いっ、いやっ。その。
 ……へ、へへへへ」

 何だか喜ばれた。
 マルカやティルアは親の顔も知らない。
 父親代わりか。俺で務まると良いんだが。

 送金を依頼して、配達屋を出る。
 受付さんは笑顔で手を振ってくれた。

 親の居る家庭。
 教育されている子供と思われた、か。

 マルカの纏った旅の装いセット。
 孤児らしさを隠している。

 これが元の中古なボロ皮鎧姿だったら。
 多分、もっと疑われただろう。
 金を盗んだとか思われる。
 憲兵に通報もあり得た。
 そう考えると、身なりを整えるのも重要だ。

 さて、あちらの身なりは整ったか。
 仕立屋に戻ると、店の前に整列している。

 子供達。ツェンタ、アイリス。
 テルーザ、エメリナ。
 フレヤ、ジェマ、ルーシャの7名。
 新たに旅の装いセット。

 花人の新人達。カトレアンナ。
 アザレリーナ、バーべネリア。
 ゼラニア、アンスリーヌの5名。
 ケープを贈った。

「これ、カチカチで落ち着かないにゃ」

 フレヤとジェマ。
 きちっとした服は慣れない様子。
 しかし獣人さんチーム。
 元がワイルドで露出が多過ぎだ。
 生足晒して、変な男が寄って来ても困る。

「ちょっとピチピチだよー」

 胸元がキツそうなのはテルーザとエメリナ。
 いきなり胸をはだけない。

 ニンフや人魚は男を惑わす為か。
 フェドラ同様に発育が……
 カーラさん、シャツの在庫は無いか。
 もう1つ上のサイズに。

 と、着替えを用意して貰い……
 いきなり脱ぎ始める2人。
 待て待て待て待て。
 オープン過ぎて、おじさん心配だよ。

「男はおじさんだけだから大丈夫だよ〜」

 エメリナ。
 おじさんが大丈夫じゃないんだけれども。

「おじさんが喜ぶと思って」

 テルーザ、喜ぶより困っちゃうんだが。

 と、テルーザが手招きして。
 耳を貸せ? コショコショと内緒話。

 ……ゴハンやるから胸見せろだと?
 前の村で言われた事がある?
 あの村、次に立ち寄ったら焼き払ったろか。

 ふと見ると、ケープに刺繍。
 他の子達、花人達にも。
 全員のケープに黒い猛禽のマーク。
 俺は金を払っていないが。
 自費で依頼した様だ。

「黒い鷲だから黒鷲団だよね!」
「もう大丈夫です! 覚えました!」

 ツェンタとフレヤ、力説。
 間違えていたのを気にしていただろうか。
 お前達は良いんだ。
 適当に言い触らしてる吟遊詩人を締めたい。

 次は……えー、まだ鐘は鳴らないな?

 装備の揃った子は矢弾の補充を。
 道具屋ドリスの店が隣だ。
 新人は俺と、ハミルトンの店に寄ろう。
 ユッタに金を渡す。
 俺の分も買っておいてくれ。

 ツェンタ、アイリス、テルーザ。
 弩兵チームに軍用クロスボウ。
 エメリナ、フレヤ、ジェマ。
 弓兵隊にはコンポジットボウ。

 ウェルベックには眼鏡を。
 アイリスの眼鏡を作成依頼。
 完成には少し時間が要るか。

 金が無くなって来た。
 後で魔女協会に寄ろう。
 特許料を受け取りに来いと言われている。

 言われているんだが……
 ここで招集の鐘が鳴ってしまった。

 くそう。金策は後だ。
 道具屋組と合流して酒場に戻ろう。



前へトップへ次へ