黒鷲の旅団
8日目(2)風評と実情

「ごっ、ゴメンゴメン!」

 酒場で待機していた所。
 ヘリヤとシャンタルが来訪。
 わざわざ特許料を届けに来てくれた。

「出ずっぱりなのを忘れてたよ」
「忙しいんだもんね。ごめんねー」

 へへへと笑いながら期待の眼差し。
 特許料を届けに来た、というか。
 新魔法を受け取りに来たのか。

 酒場の裏手で霧霜・再現魔法を伝授する。
 毎度あり〜、とヘリヤ手揉み。

 シャンタルは申請した特許の報告。
 縫合・除細動魔法。
 Aクラス治癒魔法に認定された。
 治癒術で新魔法は珍しいらしい。
 需要はあるだろうと言う。

 Aクラス魔法の特許料は50万。
 20万貰って30万譲る。
 うちの子も増えた。
 学習環境を整えて行って欲しい。
 引き続き友好的な関係をお願いします。

「ありがとうございますパトロン様〜。
 こちらこそお願いしますぅ〜」

 ヘリヤ、露骨に金づる扱い。
 ニヒヒと笑う。
 がめつさ半分・好意半分か。
 まあ、俺も助かっているんだ。
 上手く使っておくれ。

 それから、サンドラの処遇について。
 俺が雇うまでも無かったな。
 魔女協会からの派遣という形になった。

 魔女協会は俺にサンドラちゃんを貸す。
 だから新魔法は魔女協会に卸せと。
 誰も損無く現状維持。
 上手く取り計らってくれた感。

 今日までの特許料は?
 Bクラス22件で220万。
 そんなモンかと思う俺だが。
 これは少ないと零すヘリヤ。

 戦争、魔王軍襲来。
 これが人の流れを制限している。
 安定した情勢なら旅人も増える。
 買い手も来る、か。
 そうなると戦争、いよいよ終わらせたい。

 ふと、酒場の方が騒がしい。
 顔を出してみる。
 と、子供達と冒険者が揉めていた。
 うちの子の先頭にユッタとレーネ。
 どうした。

「子供使いじゃない!
 子供使いってゆーな!」

「だ、だってさ。
 子供を戦わせるなんて酷いじゃないか!」

「おじさまは悪い人じゃありません!」

「君達は騙されてるんだよ!」

 ユッタとレーネ、憤慨。
 後ろに並ぶ子供達も敵対姿勢。
 揃ってぶんムクれた顔。
 落ち着け。俺は別に気にしないから。

「でも、あんな言い方って!」
「おじさまは正しい事をしています!」

 勿論、騙していない。
 無理強いしていないつもりだが。
 それでも、戦う一択が現状だ。
 上手くないと思っている。
 後ろめたさが無いワケじゃない。

「善人ぶったって、なあ」
「同じだよ。子供を盾にしてさ」
「モンスターまで連れてるし」

 相手方は若手の4人グループ。
 若いと言っても、俺より少しレベルが高い。

 リーダー、魔法剣士レグハルト。
 二刀ダガー使いのフォルン。
 司祭キッシュ、魔女グリモ。
 魔王討伐を目指す勇者だと名乗る。

 俺の事は……と。
 自己紹介もさせて貰えないか。
 深く関わるつもりも無いから良いが。
 フレヤ、マルカ、ガルルしない。

「おう、戻ってたか」
「今日もよろしくお願いします」

 ガイゼル達が帰還。
 装備の新調に出ていたというのだが。
 ハミルトン爺さんの店の方が良い?
 他所に良い品が無かったとジノ。
 ユッタが得意げに、えへへと笑う。

 他にジェインとペネロペの姿。
 ガイゼル達から話を聞いた?
 俺に付けば安全に稼げると思われている。

「それに、相手は魔王軍だからね」
「人間同士の戦争なら、参加しないんだけど」

 冒険者が本業。ともなれば。
 敵味方のシガラミが邪魔になる。
 傭兵の様に割り切れない、としたら。
 戦争から距離を置くのも分かる。

 ガイゼル達は、シガラミ以上に金。
 金銭的に困っていたからな。
 背に腹は何とやら。副業傭兵だ。

 ふと見ると。
 ちょっと居心地悪そうな勇者さん一行。
 駆け出し、知名度が低いのは仕方ないが。
『子供使い』の周りに人が集まる。
 理由が分からん、かな。
 俺も、よく分からんけれども。

 それから少しして。
 騎士ギャレット、騎士ローレンシア到着。

「あっ、騎士さん! 俺達……」

「傾注! 参戦者、集合!
 陣容を説明します!
 と、良かった。
 子守殿、どうぞこちらへ」

 ローレンシアさん。
 勇者をスルーして俺を呼ぶのか。
 軽く気まずいんだが。
 状況を話ながら戦場に向かいたいという。

 ちょっと待った。各隊整列。
 解析魔法で体調を確認。

 ん、名前表示がキラキラ光っている。
 カーチャとノイエがクラスチェンジ可能だ。
 正規兵、銃士に繰り上げる。
 射撃適性も上がる、が。
 それより防御力微増が嬉しい。

 特に不調者は居ないな。
 2列縦隊。往来を妨げずに戦場へ向かおう。



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