黒鷲の旅団
8日目(7)魔軍お引き取り下さい

「やったわね!
 まあまあよ、まあまあ!」

 駆け寄って来るデルフィアンヌ。
 至極嬉しそうだが、評価は『まあまあ』。
 レベル3ケタ後半には遥か及ばんか。

「何よぉ、この私が褒めてるのよ?
 もっと嬉しそうな顔しなさーい!」

 この娘の『まあまあ』とは。
 最大限の褒め言葉なのだろうか。
 どうあれ、一先ずは乗り切った。
 前向きに考えようか。

 と、気を抜いた所で、ぶちり。

「あら?」

 首を傾げるブランディエーヌ。
 その手に持っているのは見覚えのある腕。

 俺の……右腕?
 いや、左だ。左腕、が、外れて。
 それがどうして。
 ブランディエーヌに握られている。

 認識した途端、襲って来る激痛。
 失血。急激な体温低下。
 意識が遠退いて……

「おおおにいしゃん!」
「おじさま!」
「ご主人っ!」

 ――――死んでる場合か!

 子供達の声に意識を奮い立たせる。
 死んでいる場合じゃない。
 俺が死んだら誰が守る。
 洗脳、鎮痛魔法。強引に意識を保つ。

「ちょっと、ブラン姉!」
「えっ、あ、あらあらあら?」

 困惑した様子のブランディエーヌ。
 その前にデルフィアンヌが立ち塞がる。
 交戦の意図は無いな?
 ただの事故だな?
 ……よし。子供達の避難は見送ってよし。

 転移魔法。まずは腕を返して貰う。
 無理に千切ったから歪な切り口。
 創傷魔法。平面状に……斬れた。
 傷口を合わせる。治癒、造血、止血魔法。

 治癒、縫合。縫合魔法。
 血管は繋がったのか?
 空間・解析魔法。
 血液は正常に流れている。多分。

 折らずに抜かれて、骨は損傷軽微。
 神経は……感覚はある。
 指も動く。大丈夫。

 筋肉が強張っている。
 中和・軟化魔法を試す。
 血が足りない。造血魔法。
 あと何が足りない。
 活力、鎮静、鎮痛魔法。

 ん? 何か派生した。
 整脈魔法……脈拍が正常に戻って行く感。
 そんなのは後でも良さそうなんだが。

 自己診断して『処置済み』の表示。
 どうにか治った……様な。
 子供達に安堵の表情。が、半数。
 残り半数、恐怖ないし警戒。

「何やってんのよ、お姉。
 やめてよ、もー」

「あっ、ごめんなさい。
 そういう流れかと思って」

「そういう流れ、って何」

「次は私の番かなって。
 間違えてしまいましたわ」

 ブランディエーヌさん……
 強いがポヤヤンとした人だな。
 デルフィアンヌも呆れ顔。

 で……どうすんだ。

 一応、友達(仮)みたいになったのだが。
 それは例えば、殺すのが多少は惜しい奴。
 大筋に関係ない程度に、だ。
 話を、聞いてやっても良い、知人。
 交渉の取っ掛かりにはなるとしても。
 決定打に欠けるな。

 時間稼ぎ、余興程度にはなったと思う。
 しかし、肝心の公主様がまだ戻らん。

「まだ、終わってないぞ……!」

 レグハルトの姿。復活したのか。
 終わってないと言うが。
 ほぼ終わっていないか。
 相方のフォルンは見るからに戦意喪失。
 キッシュとグリモは姿も見えない。

「えい」
「がぷっ!?」

 ブランディエーヌ、デコピン。
 パーンと音がして。
 レグハルトの頭が吹っ飛んだ。
 生き返るとは言え。
 スプラッタはやめてあげて……

 バリーやパラディオン達は?
 復活したが様子見。
 全く歯が立たない様子。
 死んでもレベルダウンするだけ。
 これ以上は、公主を待ちたい。

 騎士団長曰く、前に戦った魔人より強い。
 あるいは手加減でもされていたんだろう。
 このブランさんは手加減ヘッタクソだが。

 通信魔法……公主様。

『どりゃああああー!』

 目下、戦闘中。当分来ないな、コレ。

 レグハルト、喚く。
 復活するまで時間を稼げと。
 お前が復活したとして、どうなる。
 無駄な抵抗で不興を買うだけだ。
 子供達を危険に晒したくない。

 でー、魔人のお姉さん方。
 そちらとしても退屈だろう。
 今日の所は休戦してくれないか。
 タダとは言わん。
 魔法の1つも伝授する。

「サイクロプスゾンビの時のアレ。
 能力が爆増した技は?」

 デルフィアンヌ、見ていた?
 戦闘中、詳しく解析していた様子。
 その技は……まだ秘密、かな。
 もっと仲良くなったら。
 今後のお楽しみにしよう。

 魔人さんにまで自己暗示されたら。
 本当に対抗しようがない。
 洗脳魔法については伏せておく。

 最終的に、ブランディエーヌは縫合魔法。
 デルフィアンヌは再現魔法をチョイス。

 休戦の条件が新魔法の伝授になるとは。
 対抗策が見つかれば良んだが。
 俺の魔法が無くなる前に……



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