黒鷲の旅団
8日目(8)勇者分解

「それでは、ごきげんよう」

「次は何を教えて貰おうかしら。
 また来るわねえ」

 魔人達、上品な物腰でご帰還。
 次はなるべく戦争以外で来てくれよ……

「すまんな。君が交渉してくれたか」

 疲れ切った様子の騎士団長。
 魔人は想定していたが。
 2人居るのは計算外だった様だ。
 挙句、気ままな冒険者のフォロー。
 並み居るザコの排除と。
 本日の業務は多岐に渡ったと見える。

「やー、やられたぜ。参った参った」
「停戦っすか? 危ねえ危ねえ」

 魔人が去ったのを確認して。
 パラディオンやバリーが前に出て。
 するとバリー隊のお姉さん。
 3人とも走って来る。無事だったか。

「バリーちゃん、ごめんねぇ〜」
「あうう、いつもスイマセン……」

「良いって。
 生き返るのは俺っちらの取り柄だからさ」

 バリーの所はNPCの自己判断を徹底。
 勝てないと踏んだ。
 その段階で仲間お姉さん隊は散開。
 バリーを見捨てて自己保全を図る。

 囮にされたバリーも納得の上で。
 しかし見捨てたのが申し訳なく。
 信頼関係は確かな様だ。

 そして、死に慣れているのは本当に慣れか。
 バリー自身あまり思い詰めた様子は無い。
 思い詰めているのは新人側。
 ブレイドレイドやレグハルト達。

 ブレイドから聞かれる。
 傭兵は儲かるのか?
 それは冒険者を辞めて、という事か?

 稼ぎはともかく人間を相手にする仕事だ。
 怪物退治とは別の覚悟が要る。
 雇った兵士と親しくなって。
 それに死なれて思い悩んでとか。
 殺す相手のバックグラウンドを想像する。
 いざという所で躊躇したりとか。
 こっちはこっちで、楽な仕事ではない。

 そう結論を急ぐなよ、とパラディオン。
 魔王退治は一先ず置いといて。
 怪物退治で地道にレベルを上げても良いか。
 今日の仕事も、強制ではなかった様だ。

 いずれにしても。
 あのレベルに乱入されると壊滅する。
 戦力の増強、退避手段の構築は急務だな。

「くそ……勇者なのに……
 俺は勇者なのに……」

 気に入らない様子なのはレグハルト。
 曰く、神人の冒険者。
 いわゆる『勇者』であるという自負。
 魔王討伐こそが責務である。
 休戦など認められない。

「ならば私も、君も含めての力不足だな」

 騎士団長が諭す。
 普通に戦って勝てるのであれば。
 休戦する必要は無かったのだ。

 俺は傭兵だ。
 お前さんら勇者とは違う。
 生き残るのが最低ライン。
 居汚いと言われようがな。

 更に仕事として。
 騎士や兵隊と同じく街を守らなきゃならん。
 預かった子供達を死なせるワケにも行かん。

 勇者が勝てなくて、それでも。
 そこで物語が終わるワケじゃない。
 門を抜かれ、市民虐殺を許す。
 そんな事になるなら休戦を選ぶ。

「それは……
 そ、それでも、俺は勇者なんだ!
 死んだって千切られたって。
 俺達は向かって行くんだ!」

「もう嫌だよ!」

 声を上げたのはキッシュ。
 レグハルト隊の女司祭。
 同僚の魔女グリモも、ずっと泣いている。

「もうやだ。詰んでるじゃん。
 やめる。こんなゲームやめる」

「そりゃ無理だぜ。
 規約見ただろ……」

 泣き続けるグリモ。
 肩を落とすフォルン。

 規約。削除は認められないという記述。
 電脳コピー体の俺達だが。
 自由にこの世界を出られない。

 神人だから生き返るのだが。
 しかし勝てない相手だと死に続ける。
 苦痛も緩和されるのは同調側。
 リンクしたユーザー本体の方だ。
 こっちの俺達は普通に痛い。苦しい。

 パラディオンも言う。
 出来る事だけ気楽にやった方が良い、と。
 死なない様に逃げ回って。
 レベルを上げて。生活して。

 ロードメイア。
 状況が変われば削除も許されるかも?
 これにはパラディオンが首を捻る。

 本当に異世界かも知れんのだよ、ここ。
 消させない、のではなく。
 消せないのかも知れない。
 言った所で落胆するだけだ。
 ここは黙っておくが。

 削除が叶うか……は、どうあれ。
 当面、この状況下で生きねばならん。
 魔王に挑むのか、諦めるのか。
 選択肢は掲示したが。
 自分で決断した方が納得出来るだろう。

 決断。レグハルト隊、分裂。
 あくまで魔王に挑むというレグハルト。
 しかし残りの3人は心が折れた。
 どうしてもやるというのなら。
 自分達はパーティを抜けるという。

「じゃ、じゃ、じゃあ脱げよ!
 お前もだ! お前も!
 装備を置いてけ!
 勇者の支度金で買ったんだ!
 当たり前だろう!」

「お、おい、止せって」

「見苦しいわよ。
 2人は女の子でしょう」

 レグハルトが無茶苦茶言い出して。
 パラディオン達が仲裁に入る。

 結局の所、装備品は各自の物。
 所持金は頭割りで分配、に落ち着いた。
 舌打ちして去って行くレグハルト。

 勇者のパーティが空中分解。
 魔王討伐なんて、夢のまた夢だな。



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