黒鷲の旅団
8日目(9)火の粉を振りかける奴ら

「すまんが報酬は冒険者ギルドで頼む。
 伝令役から話は通しておく」

 騎士団長達、正規軍は足早に離脱。
 苦戦している公主様の援護へ。
 労い程度に活力魔法。無理はするなよ?

 話が一段落したと見て。
 子供達が集まって来た。

「ごめんな、おっちゃん。
 あんま役に立てなかった」

「帰ったら縫合魔法、覚えないと」

 子供達がションボリ。
 俺1人に戦わせ、怪我させた。
 それを気に病んでいるのか?

 ゾンビやスケルトン相手には上々。
 魔人の小さい方も言ってただろう。
 まあまあだって。

 まあまあ。悪くは無い。
 足りない所は、これから育てばいい。
 あの水準まで至れるかは分からんが。

 しかし、魔法覚えたい、か。
 縫合は必須じゃない。
 転移魔法が先だ。
 脱出したり、させたりする手段が欲しい。

 人体の転移には転移魔法の熟練度。
 スキルレベルが30必要。
 当面は練習が必要だが、だからこそ。
 早い段階で覚えた方が良い気がする。
 矢弾の出し入れで普段から使える。

 魔女協会には後で寄るとして。
 まずは冒険者ギルドへ向かう。

「よ〜う、お山の大将。
 面白いの連れてんじゃねぇか」

 絡んできたヒャッハーさん。
 冒険者ダニエル。

 花人達かと思えば、ペトリナの事で?
 当のペトリナは青ざめる。
 俺の服の裾を掴み……

 思い当たる。
 頭に血が昇るのを感じた。
 右手が銃を抜きそうになる。
 左手で速射・鎮静魔法。

 こいつか……こいつが。
 ペトリナに酷い乱暴を。

「ひゃははっ、どうした。
 やんのか? お?」

 挑発するダニエル。考える俺。

 ペトリナの反応。
 ダニエルに暴行されたのは確かだろう。
 が、それを証明する手立てが無い。
 証言なり物証なりを見つけなければ。

 では、今、どうする。
 司法による糾弾を捨てて。
 私的な報復をするのか。

 相手はレベル30台が3人。
 ダニエルが剣士。
 手下のカリオン、フォルケ。
 こいつらも前衛と見える。

 俺はサイクロゾンビ討伐で上がった。
 今レベル27だ。
 1人ずつ誘い出せば倒せるかも。

 しかし、街中で殺人を犯す事になる。

 流血が無ければ引き下がった憲兵隊。
 あいつらも、死人が出ればどうか。
 周囲には他の冒険者の目もある。
 取り押さえられるだろう。

 今俺が捕縛されると、どうなる。
 ユッタ達の先行きが不安。

 戦うべきは今じゃない、が……
 気に入らんのも確かだな。
 向こうから手を出してきた場合。
 殺して良い法は無いだろうか。

「ちょ、ちょっと……凄い顔してるわよ」
「どうしたどうした、こいつらか?」

 先に来ていたロードメイア。
 パラディオンも間に入ってくれた。

 再度、鎮静魔法を自分とペトリナに。
 子供達は一足先に魔女協会へ向かわせる。
 巻き込みたくはない。
 どんな展開になるにせよ。

 薄ら笑いを浮かべるダニエル。
 子供達の後を追おうとする。
 行かせるか。立ち塞がり、聞こう。
 少女娼婦暴行殺人未遂事件の下手人。
 あんたじゃないのか。

「ぎゃははは!
 聞いたか、みなさ〜ん?
 娼婦だってよ。娼婦。
 こいつ、子供の娼婦を囲ってんだ。
 他のガキだってヤってんだろ?
 どのガキが一番良かった?
 チビか? ボインちゃんか?
 俺にも貸してくれよぉ〜♪」

 下品に腰を振りる。
 煽りながら話を挿げ替えて来た。
 いっそ阻害魔法でもブチ込んでやりたい。
 しかし魔法犯罪、どこからペナルティか。
 判断つかないのが困る。

「放っておこうぜ、あんなの。
 関わるだけ損だよ」

「あたしらは知ってるからさ。
 そんなんじゃないって……」

 トリットとベデリアにも宥められ。
 そうだな。どの道、今は。
 引き下がるしかないのだろう。

 ウェストン支部長に会う。
 魔王軍足止めの参加報酬を貰う。
 休戦交渉で特別手当が出た。

 ついでに階級申請も頼む。
 俺が1つ上がり、赤銅等級に昇進。
 ダニエルと並んだという話だが。
 基礎レベルは下。
 階級で何か強制出来るワケでもない。

 子供達は……サンドラ、ユッタ。
 イェンナ、レーネから。
 マリナ、フェドラ、ペトリナ。
 トゥーリカまでが銅等級。

 マルカ、ティルア、カリマ。
 3人が黒鉄等級。
 残りの子も全員鉄等級に認定された。

 本来なら、本人確認も必要らしいが。
 今日はとても空気が悪い。
 免除して貰った。

 支部長曰く、ダニエルは貴族の子息。
 ギルドもアレの素行を危惧しているが。
 幅を利かせるのを止められないの様子。

 懲りずにまた来てくれと支部長ウェストン。
 それはちょっと、もう……
 約束出来ないかなぁ……



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