黒鷲の旅団
8日目(17)手が届いたから掴んだ

「やー、あんたは良い人だ。
 こいつらは死なずに済んだ。
 あたしらは金が貰える。
 あんたも好みの奴隷が手に入って。
 みんなハッピーさ。
 商売ってのは、こうでなくちゃ。なあ?」

 奴隷商ティベリオ一行。
 上機嫌で引き上げて行く。

 最初は吹っ掛けようとしていたが。
 面倒なのでカードを提示。
 本当に20万少々しか持ってない。
 これは早々ご理解頂いた。

 一度騒ぎになっている。
 連中も早く始末したかったんだろう。
 俺の言い値。20万。
 2人合わせて20万で手を打ってくれた。

「良かったんですかい、旦那ぁ。
 10万もする様なガキには見えませんぜ?」

 闇商人ダルテリオ。その辺はもう仕方ない。
 買わなければ殺されていたかも分からん。
 後で思い出してモヤモヤする。
 それよりは幾らかマシだろうさ。

 あとは、この子らをどうしようか。

 腫れた頬を治そうと近寄って……噛まれた。
 落ち着いて。何もしやしない。
 治癒魔法。あと、足枷・首輪に解錠魔法。

 と、もう1人が体当たり。
 大した体重じゃないが。
 腰のホルスターから拳銃を抜かれた。
 抜かれたんだが、構える上下が逆。
 武器なのは知っている様だが。
 使い方は分かっていない。

「ヘルヴィに、触るな……」

 掠れた声。喉が痛んでいるのか。
 痛んでボサボサの髪。痩せた腕。
 扱いは良くなかったと見える。

 と、ヘルヴィ?の方が、もう1人に耳打ち。
 何か話し合って、恐る恐る歩み出る。

「ヘレヴィのも、はず、外して」

 そっちがヘレヴィなんだな。
 勿論だが、銃は返してくれるか?
 外したら……そうだな。まずは外そうか。

 解錠魔法。首輪と枷を外す。
 治癒は……触られたくない?
 ちょっと待ってろ。
 設置発動、範囲治癒魔法ヒールエリア。

 地面に白く光る魔法陣。
 騙されたと思って踏んでみて。
 ヘレヴィが踏むと、頬の腫れが引いた。

 あと必要な物は……と聞いていて。
 2人の腹が鳴った。

 食事。転移魔法コールストレージ。
 保存していた干し肉をやる。
 がっついてムセた。水魔法。
 器が鍋しか無くて悪いな。

 ヘレヴィはナイフが欲しいという。
 なるほど、身を守る手段が欲しい。
 倒した盗賊が落としたのが何本かあった。
 4本取る。それぞれ二刀使いのつもりか?

 あと、布。着る物は手持ちに無いな。
 お金。あるだけ渡すが。
 少ないのか不審がる。

 もっと、と言われても。
 数字は読めるか?
 カードの残高を見せると、落胆と溜息。
 しかし納得した様だ。

 振り返るとヘルヴィは……
 座り込んでいる。大丈夫か?
 診断。衰弱、発熱、吐き気と。
 感染症、が良くない。

 ……ごめんな、ちょっと触れるぞ。
 診断や治癒は触れた方が確実性を増す。

 解毒、浄化魔法。効きが悪い。
 浄化魔法に殺菌効果があるハズだが。
 浸透してからでは遅いのか。
 治癒、活力魔法。吐いてしまった。
 活力魔法は病原菌まで活性化してしまう?

 苦しそうに呻くヘルヴィ。
 助ける。きっと助けるからな。
 助けるから、もうちょっと頑張って。

 並列、鎮静・節制凍結。
 連続並列、解毒・治癒。
 速射並列、中和・鎮痛。
 解熱魔法アンチパラティック。

 並列、抵抗・節制毒。
 連続並列、造血・治癒。
 速射並列、治癒・解毒。
 抗血清魔法アンチセラム。

 自分に7通りほど試してみて。
 ようやく2つ見つけた。
 ヘルヴィに使う。
 発熱と吐き気、感染症が消える。
 呼吸も安らかに。
 再度診断は『処置済み』と。

「ど、して……」

 ヘレヴィの問い。
 放っておけなかったからだ。
 俺の自己満足の為だから。
 代価は必要ない。

 ヘルヴィを休ませたいが。
 どこへ行くのが良いだろうか。
 魔女協会は門が閉まっている。

 俺の部屋……でも、不審だろう。
 もう一部屋借りる金も無い。

 ヘルヴィを抱き上げる。
 東下層区の教会へ。
 シスター・メアリに頼んだ。
 2人を泊めて貰う。

「そうですか。
 殺されかけていた奴隷の子を。
 やっぱり貴方は神の御使いですわ」

 シスター・メアリ、大袈裟。
 神の御使いは奴隷を金で買わんだろう。
 奴隷制を無くすだけの力は無い。
 手の届く所に手を伸ばすのがやっとだよ。

 何か言いたげなヘレヴィ。
 上手く言葉に出来ないのか。
 それとも言葉をよく知らないのか。

 気にするな。
 まずは一晩生き延びなさい。
 生きる自由。生きる権利。
 もうお前さんの、その手の中だ。



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