黒鷲の旅団
8日目(18)勇者不在の夜

 ヘルヴィとヘレヴィ。
 2人に有り金全部くれてやって。
 さて、本当に金が無くなってしまった。

 すっかり遅くなったが、金策。
 明日の朝食代を捻出したい。
 俺は冒険者ギルドに足を向けた。

 冒険者ギルドの門戸は常に開かれている。
 緊急の依頼に備えて、という事らしい。
 給仕の顔ぶれが違うのはシフト交代だな。
 支部長はもう寝ているだろうか。

 子供達の集めてくれた薬草や鉱石を納品。
 納品系依頼を纏めて片付ける。

 と、大変喜ばれた。
 戦争で物資全般が不足している。
 もっとマメに納品しても良かったかな。

「お兄さんって、アレでしょ?
 えー、黒……なんとか」

 こうアヤフヤな印象。
 早く是正してしまいたい。
 積極的に売り出した方が良いだろうか。

 自己紹介。
 黒鷲団、の名前で傭兵をやっています。

 給仕さん2人の他は、俺ともう1人。
 フードを被った怪しい奴が居るだけだ。
 探知魔法。イエロー。中立マーク。

 解析……ああ、あの人か。

「ちょっとー。
 アディばっかズルいわよー?」

「えー? 仕事だって、仕事〜」

 夜勤の給仕さん達。
 業務は受付メインじゃない。
 昼勤より給与は高いらしいのだが。
 他人と接する機会が少ないらしい。

 アデライード事務仕事の処理。
 セヴリーヌは料理の仕込み。
 合間に受付の仕事が来れば対応する。
 といった様子。

 セヴリーヌさんには何か軽食を頼む。
 出て来るのは納品したキノコのソテー。
 依頼人がギルドという場合もあったか。

 ふとペンを置いたアデライード。
 カップを手に俺の席へ。
 サボり? ではなく休憩だと。

 話が聞きたい、というアデライード。
 何しろ冒険者ギルドに居ない冒険者。
 ウワサは聞くが、どこまで本当か。

 副業傭兵。正解。
 武器は銃。剣も使う。魔法もだ。

 公主様と友達……
 まあ、知り合いではある。
 花人を集めて。違う。
 集まって来ちゃうんだ。

 それから、少し聞き難そうに。
『子供使い』という噂について。
 子供を連れているのは本当。

 不当な扱い。何を不当とするかに寄る。
 子供を戦わせている。
 戦場に出している。
 これを不当とするのなら。
 まあ、不当なんだろう。

 最初に会ったのは戦場跡。
 死体漁りをする子供達。
 家族の借金返済。悪い大人への上納金。
 虐められない場所、安息の地を求めて。
 子供達には、それぞれ金が必要だった。

 伸び悩んでいる見習い魔女に目を掛けた。
 露店で売られている妖精を買い取った。
 いや、売っていたのは魔女ではなくて。

 盗賊に捕まっていたのが3人。
 その内1人がダンピール。半分吸血鬼だと。
 そのせいで命を狙われて。
 最初の子の1人が庇って怪我をして。
 パラディオン達との交流も、その頃からだ。

 冒険者登録。マネーカードの配布。
 俺について回る子にも報酬が入る。
 取り分を仕送りに当てる子が居た。
 その金に張り合って。
 また戦場に出る子が出て来た。

 あまり良い傾向ではないと思う。
 しかし、それだけ貧しい子が大勢居る。
 国や神聖教会の援助は足りていない。

 花人を庇って聖騎士にブッ飛ばされて。
 廃村を回って取り残された子供を回収して。
 集まって来た子供や花人を受け入れて。
 ぼちぼち大所帯になってしまった。
 さっきも、逃げた奴隷を助けてな……

 ふと、そわそわした気配。
 フードの男か。
 自分の起こした事件だ。
 顛末が気になるのだろう。

 逃げた奴隷は連れ戻された。
 そのまま処分されそうだった。
 俺が金を払って買い取った。

 一度逃げなければ。
 俺が買う前に処分されていただろう。
 しかし、手酷く殴られていて。
 先に逃がしたであろう奴。
 少し失敗したかもしれん。

「……子供使いの、くせに」

 フードの男がボソリ。

 そうだよ。俺は子供使いだ。
 善悪よりも安全を取る。
 奴隷商にも金を出す。
 勇気と腕力で解決するのは専門外だ。

 力の足りない正義の味方。
 善も成すけどロクデナシ。
 途中で諦めて逃げ隠れする先輩方も含め。
 この国には、まともな勇者様が居やしない。

 それでも俺は、必要だと思う事はやる。
 子供達は守り育てる。
 貧しさと差別から守る。

 少女娼婦殺人未遂事件の犯人。
 奴は必ず報いを受けさせる。

 お前さんはどうする、レグハルト。
 言葉に窮するフードの男。

 俺は代金を置いて、ギルドを後にした。



前へトップへ次へ