黒鷲の旅団
9日目(2)戦力比、300:5000
妙な運びになった。
俺達の配置は北門。
敵は北西部から迫るNPCの公国軍。
最寄りはシュテルン公国かな。
その公国軍が相手、のハズなのだが。
その陣営に、魔人が。
ブランディエーヌが顔を出すという。
で、そのアンヌと話していて発覚した。
NPCシュテルン公国。
これが魔王軍と同盟を結んでいる。
公主も気付かなかった様だ。
南北から別々に攻められていた。
同盟関係とか吹聴されていない。
人間の国が、魔王軍と手を結ぶ。
あまり表沙汰にしたくない話にも思える。
亜人差別の神聖教会が鎮座。
大陸全土に根を張っているのだ。
奴らの権限は強い。
信奉者も少なくないだろう。
平時なら、亜人など、魔王なんぞ。
とても手を組めた物ではない。
そこを曲げて、というからには。
余程の利益を見出した人物が居て。
そいつは周りを黙らせるに足る権力者?
「おじさん、難しい顔してる?」
「しっ。邪魔しちゃダメだよ」
テルーザとユッタ。構わんさ。
考えても仕方ない事は後回しにしよう。
今は目の前の敵を凌がねば。
生き残る支度をしに掛かる。
「それじゃ、今日はよろしくねー」
味方陣営に着くと、早速か。
魔人デルフィアンヌの姿。
敵側で参戦しない。
代わりに、戦いを見せろという。
敵陣は敵陣で、魔人。
ブランディエーヌが招かれている。
敵味方の視点から観察するという事か。
こちらとしては、戦力不足。
魔人に対抗出来る実力者が足りない。
足止めになるだけでも御の字とする。
シュテルン公国、今回の敵総大将。
第2公子ディートリッヒ。
ブランディエーヌに求婚しているとか。
軽く片腕引き千切って行く人だぞ。
俺には正気と思えんのだが。
美人と言えば美人だからな……
ルーマニアを巡る戦いは試金石だと。
仮に、ここを陥落させたとしたら。
魔王領と公国領が地続きになる。
当然、国交は盛んになるだろうし。
ディート何某の手ははブラン嬢に届く。
大手を振って迎えに行ける。
他方、デルフィアンヌは……
お姉様が人間に嫁ぐのは、面白くないか?
「ぶっふー! 知った風に言うわね。
でも、そうよ。面白くないわ。
あんな顔が良いだけの男。
あんたのが万倍マシよ。
私の自慢の尻尾を汚らわしいって。
絶対許さないんだから」
言いながらアンヌ。
スカートの裾をたくし上げる。
足の間から、尻尾?
尻尾が顔を出した。
黒光りするウナギみたいな尻尾。
これを汚らわしい。卑猥?
想像する方の頭が卑猥じゃないのか。
スカートの中から物を出す。
それ自体は少々ハシタナイとも思うが。
まあ、とにかく、尻尾だ。
変身したフェドラにも生えて来る。
大して驚くまい。
どうかと聞かれ……そうだな。
先っちょがハート形で可愛い、とか?
「むふふ。
やっぱりあんた、まあまあだわ」
アンヌは上品にお辞儀。
しかし尻尾は激しくニュルニュルン。
内心嬉しいのだろうか。
ともあれ、陣容を整えよう。
前衛は騎士団と兵士達。
イェルマグ兄妹の騎兵隊。
エリック達も騎兵見習いになっている。
後方には俺や子供達、花人。
ランカー達3人組。
街の下層区から少年少女兵。
国軍の弓弩・銃士隊。
それから……魔女だ。
「遅くなりました!」
「参陣仕る!」
「どこに入れば良いんだい?」
大魔女と上級魔女が続々と到着。
こちらの陣に加わって来る。
弓弩・銃士隊の後方に就いてくれ。
戦闘中は魔法付与。
あと障壁魔法に寄る防御をお願いしたい。
特に障壁魔法だ。
盾役があまりにも足りない。
完成した帰還スクロールの配布も頼む。
戦況。戦端は未だ開かれていない。
彼我の戦力差、3百対5千。
パッと見、死地。
まだ向こうが打って出ないのは?
弱者がどう足掻くのか見てみたい。
ブランがそう吹き込んでいると。
これはアンヌの談。
花人達が走り回る。
2重3重の茨障壁を設置。
敵に屈強そうな重装騎兵隊が居る。
あんなモンに自由に突撃されたら堪らん。
しかし茨だけじゃ足りんかな。
マグダレーナが石柱魔法とやらを披露。
石柱というか石細工魔法というべきか。
土を硬化、石の建造物を作る魔法らしい。
陣地構築に利用中。後で教えて貰おう。
俺は1つ新魔法を探す。
創傷と土、腐食と分解、重力と軟化。
地裂魔法アースクリーヴを生成。
大地に亀裂が走る。
幅と深さ1m、長さ5m程。
初歩の単発ともなれば、こんなモンか。
こいつを付与、長弓で複数射。ばら撒く。
左翼、右翼を広く崩壊させる。
敵の進路を限定する。
最低限、騎馬突撃には差し障るだろう。
弓兵隊にも手を借りて。
ちょっと待った。マルカ、フレヤ。
あえて真ん中は残しておくんだ。
地裂の崖、茨と石柱のバリケード。
タールや設置・阻害魔法の罠の数々。
不落は知らんが難攻にはなったと思う。
「スゲェ……」
「何だ何だ?」
「もしかして俺達……」
死を覚悟して来たであろう兵士達。
その目に、それまで無かった光が宿る。
それで、宣戦布告は……どうするかな。
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