黒鷲の旅団
9日目(3)氷花一輪、血河散華
陣容は整ったが、整い過ぎた。
敵が警戒して攻めて来ない。
どう宣戦布告するか……
俺が考えて込んでいると。
マルカがツンツンして来る。
ん、どうした?
「あ、あのさぁー。
何で真ん中残した?」
地裂魔法で真ん中だけ崩さなかった理由。
お前だったら、何でだ。どうなると思う?
「え、えっと、敵があそこを通る。
……通らせたい、のか?」
そうだ。他に通れる所が無い。
みんなそこを通ろうとする。
大勢で狭い道を通る。
となれば当然、時間が掛かる。
そこを狙い撃つ。
真ん中だ。狙い易いだろう?
「ひひ、そうか。そうだな」
マルカ、納得した様子で配置へ。
作戦の結果が目に浮かんだ。
楽しいらしい。
また1つ賢くなったかな。
「おじさまの考える事に間違いは無いです」
レーネはつっけんどんに言うのだが。
どんどん聞いて良いんだぞ?
疑問を持つのは考える第一歩だ。
俺の考え方を覚えて、実践して。
俺の留守が守れるぐらいになって欲しい。
「留守を守るんだからー。
奥さん役だね〜」
「おおおお奥っ!?
ががが頑張ります!」
「え、えっ!?」
「何、何だって?」
フェドラが炊き付けてしまった。
みんな目の色が変わった。
まあ、この際、憧れでも何でも。
力の足しになってくれれば。
さて、宣戦布告をどうするか。
スコープで敵陣を覗き見る。
敵陣後方。少し高台。
わざわざ設置したのか観戦席がある。
上座に座っているブランディエーヌ。
隣の優男が求婚者か。
丁度ブランに花を贈っている。
武器、対物小銃ツァスタバM93。
付与魔法、氷花。最小出力。
優男の花を狙い撃つ。
対物火器の威力で花が爆ぜた。
弾丸はそのまま後ろの壁に突き刺さる。
氷花魔法が発動。氷の花を咲かせる。
次いで通信。
ブランディエーヌさん、こんにちは。
『あらあら、貴方ですの?
先日は粗相をいたしましたわ』
腕なら治ったので気にしないでくれ。
仲直りの印に花を贈ったが、届いたか?
隣の男にも見せてやって欲しい。
スコープの先。
ブランが氷の花をむしり取る。
優男に見せて……にっこり?
お株を奪われた優男。
真っ赤になって怒っている。
大変結構。総員、戦闘態勢だ。
遠からず突撃が来るぞ。
「ぶっ、くっくくく……」
失笑しているデルフィアンヌ。
お前さんは大した視力だな。
スコープ無しで見えるのか。
敵の動向を窺う。
顔ぶれを見て行く、と。
あまり一枚岩ではない様子。
優男、総大将と同じ様な服。
ご兄弟だかが数人居るのだが。
怒る奴も居れば、恐怖、興味。
笑っている奴も居る。
やがて優男を含めた男3人と。
女4人が馬に乗る様だ。
1人は、どこかで見た顔だが……
「左から、白い馬の優男。
あれが第2公子ディートリッヒね。
次、ゴツイの。第3公子マクシミリアン。
キツそうな銀髪が第5公女リュドミラ。
太い奴。第4公子エドヴァルト。
鎧の金髪が第7公女ヒルデブルク。
もう1人銀髪が第8公女ユスティーナ。
金髪。第11公女シャルロッテ。
名前は多分、合っていると思うわ」
デルフィアンヌの情報補完。
1つ聞いた名前があるが……
それにしても子沢山だな、公国公王。
しかしアンヌ曰く、うち程じゃない?
魔王様はもっと子沢山らしい。
そのスペックが大勢いるのか。恐ろしや。
さて、敵が動いたが。
騎兵・歩兵隊、まだ前に出るなよ。
遠射の露払いが済んでからだ。
マグダレーナから石柱魔法を伝授。
台座を作って……どっこいせ。
ここらでキープ武器。
真打ちにご登場頂こう。
「ちょ、旦那……またまた。
パネェもん持ち出しちゃって」
「え、え、何それ」
「それも銃なの?」
イェルマインは流石に知ってるか。
イェンナ、ティルア、まあ見てなさい。
敵の進路、地裂魔法から残された道。
幅は5〜10mぐらいだろう。
そこに騎兵隊が密集して来る。
タタタタタタタタタタタ……
ズババババババババ!
ブローニングM2が弾丸を吐き散らす。
血煙を吹いて敵兵が倒れて行く。
両脇の溝にドタバタと落ちて行く。
「ひえええええ!」
「怖い怖い怖い怖い!」
味方もビビっているが。
敵はそれ以上だろう。
少々やり過ぎたかも知れんが。
最初が肝心とも言うからな……
タタタタタタタタタタタ……
ズバババババババババキュギギギギギッ!
少しして、着弾地点の音が変わった。
淡い光に包まれた鎧の戦列が見える。
どうやら来たな、魔法障壁とやら。
総員射撃用意。今度はお前達の出番だ。
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