黒鷲の旅団
9日目(4)障壁の隙間
「でも、弾かれるんじゃ?」
「あのタタタって奴も効かないのに」
射撃用意に際。
ユッタとイェンナの問い。
2級の魔女魔法授業を修了している。
魔法障壁については学んで来たかな。
魔法の壁。対物理障壁。
飛来する弾丸・弓矢の勢いを消失。
無力化して落とす。
対物理、特に射撃に対する障壁だ。
……物理攻撃だけな?
魔法障壁には大きく分けて2種類ある。
対物理障壁と対魔法障壁だ。
この2つは同時に存在し難いらしい。
対魔法が、対物理障壁に干渉してしまう。
対物理障壁は、魔法の飛来を阻めない。
お前達の矢弾には魔法付与がある。
弾丸が徹らなくても魔法が徹る。
魔法が徹らなくても弾丸が徹る。
という事を、おじさんも勉強して来た。
勉強して来た、らしい。外の世界で。
ユーザーとのリンク。
経験情報の吸い上げが主だが。
逆に、向こうで得た攻略情報。
これもまた、こっちに流れて来る。
俺の電脳コピー主、ここの俺に協力的だ。
まあ、それはともかくとして。
先のブローニングM2。
素の力が見たくて魔法付与をしなかった。
対して魔法付与の矢弾であれば。
幾らか障壁相手に通用するハズだ。
魔法付与。
うちの子に限らず、全員に魔法付与。
俺や魔女達で分担する。
各隊に魔法付与を行き渡らせる。
敵はキャリバーを凌いだ。
意気を取り戻した様子。
対物障壁持ちの部隊を前面に出す。
続々と迫って来る。
しかし、戦場の左右。
地裂魔法の悪路がまだ残っている。
突撃の進路は限定されたままだ。
弓兵隊に水、弩兵・銃士隊に雷付与。
斉射3段、始め。
矢弾は弾かれて敵の足元に落ちるが。
落ちた端から水と雷撃を発生させる。
解析。敵前衛。
対物理障壁の術を施した金属甲冑。
何しろ金属だ。感電する。
まあ、効かなきゃ燃やすだけだが。
正面の行路10mは死体で溢れる。
左右の窪地にずり落ちる。
水と死体が溜まって行く。
探知、空間……敵の動きは?
解析魔法。敵後方の一団。
『レジスト・サンダー』の表示。
属性耐性『雷』が付与されている、か。
耐雷属性部隊、進行開始。
こちらは弓兵隊に錬成付与。
弩兵・銃士には炎だ。
弓兵隊、斉射。
少し置いて弩兵・銃士隊、斉射。
錬成魔法のタールが拡散。
炎魔法で着火する。
後続の騎兵隊が焼け死んでいく。
纏わりつく火。
消そうと溝の水に飛び込む者も居るが。
凍結付与、長弓複数射で追撃。
せいぜい凍っていろ。
と、次の部隊。
『レジスト・ファイア』の表記。
そう簡単に用意できる物なのか?
装備ではなく魔法の付与。
とは大魔女フリアリーゼから。
正面を防ぐだけではダメだ。
術者を探して倒す役が必要か。
場所は大体分かっているんだがな……
敵本陣、天幕。あるいは向こう側。
耐性持ちが、そこから出て来ている。
通信魔法。騎士団長を呼ぶ。
法規について確認を……
視界の端で、バスン。
距離50mで閃光魔法が発動。
茨バリケード脇?
先に仕掛けた罠に誰か掛かった。
地裂魔法の溝を越えて来た工作部隊か。
想定内。最寄りの銃士隊で迎撃。
気付いたマグダレーナが駆けて来た。
騎兵での巡回を提案。
同時、レーネの凛々しい声。
正面の敵の対応を求められる。
マグちゃんに手を借りる。
石柱魔法ストーンピラー。
円筒状の石の柱が建つ。
こいつに浮遊魔法を添加。
重力魔法で押し出そう。
石の柱が飛んで行く。
質量で敵正面部隊を薙ぎ倒す。
「アレなら私らでも出来そうだ」
「きひひひ。一丁やったるかね」
レイヴンヒルト、フッケバエナ隊。
攻撃役に参加してくれる。
まだ敵の遠射は届いていないが。
それでも警戒を怠るなよ?
マグダレーナに巡回を依頼。
騎兵部隊に戻す。
入れ替わりに来たのは騎士団長。
用件は法規の確認。
ここら辺の戦時法だ。
後ろにいる付与魔術師を撃ちたいが。
これは協定違反になるか?
違反ではない……なら大丈夫。
それより兵が暇している?
子供達にだけ戦わせている。
それが後ろめたいのか。
花人隊に頼んで、弓矢を。
硬化したツタの弓矢を作って貰おう。
俺は敵の付与術士を排除したい。
問題は、付与術士である、という事。
陣地、天幕の影。
天幕にも魔法付与だろう。
普通に撃ったのでは弾かれる。
貫通するだけの爆発力が欲しい。
サンドラ、トゥーリカ。
敵監視と報告を頼む。
ユッタ、レーネ、マリナ。
各隊の判断で迎撃を。
ちょっと頭を使いたい。
時間を稼いでくれ。
でも何かあったら言ってくれ。
どっちだか難しいよ〜、とティルア。
はは、そうだな。すまん。
じゃあ……ちょっとだけ頼むぞ?
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