黒鷲の旅団
9日目(5)損害比、0:700
子供達が時間を稼いでくれている。
あまり時間を掛けられないが。
だからこそ、落ち着いて。
効率的に事を進めたい。
作業に取り掛かる前にイメージしよう。
原材料は錬成・分解魔法で作るとして。
化合物、結合反応。融解と凝固で良いか?
錬成、分解、凝固……ぼふっ。
手元で燃えてしまった。
何してるの、とデルフィアンヌ。
まあ、ちょっと化学の実験をな。
魔法で硝酸化合物を作りたい。
「ショーサン? 何、火薬って奴?」
まあ、それに近い物だ。
ファンタジー世界で火薬。
お前さんも結構な博識だな?
着弾までに反応しては困る。
一度、製品として生み出すには……
安定剤などはどうか。
鎮静魔法とかで代用できないか。
錬成、分解、鎮静、蒸留。
撹拌、中和……んん?
安定し過ぎて何も起こらん。
中和が違うか。融解、凝固、撹拌。
混ぜる。調合……
調香魔法に要素はあるか?
精製魔法リファインを発動。
違う。これじゃない。
これじゃないけれど、しかし。
これはこれで使える気がする。
並列発動、錬成・分解。
連続並列、融解・精製。
速射並列、凝固・鎮静。
爆薬魔法エクスプローシブ発動。
発動すると黒い球体が発生。
このまま使えるのか?
空き地に放ってみると爆発した。
まあ、こんなモンか。
『なんかドフンって言った』
『出来た? おっちゃん出来た?』
子供達から通信が来る。
ああ、出来たよー。
弾丸より魔法そのものの威力が見たい。
対物小銃ではなく狙撃銃。
ウルティマ・ラティオ。
魔法付与、早速の爆薬魔法。
対象、敵陣営、天幕……発射。
ボフン、と爆発。
天幕が支柱ごと吹っ飛んだ。
向こうに付与術士らしい姿。
驚いたのか引っ繰り返っている。
追撃する。
相手は障壁魔法で対処する様子。
ラティオで追撃。
弾丸が障壁で止まり、しかし爆発。
対物障壁で防ぎ切れない。
衝撃で再び引っ繰り返る付与術士。
3発目を放ってトドメを刺す。
他にも天幕がある。爆破解体。
出て来る魔術師を次々に射殺する。
次の天幕は……ん?
貴族っぽいのがコケている。
銀髪の公女。どっちだ。
ユスティーナかリュドミラ。
あいつは見逃そう。
変に遺恨になっても面倒だ。
他に貴族は、と。
右前方に絢爛な白甲冑の騎士。
兜から覗く長い金髪。
恐らく第8公女ヒルデブルク。
突出しているので狙い目と見た。
解析。障壁は射撃耐性だけ。
昏倒、束縛魔法で動きを止める。
通信。各隊。
その白い騎士は殺すな。馬を撃て。
アンゼさん、ツタで絡み取れる?
銃士隊、回収を援護。
力自慢のマルカが踏ん縛った。
後方へ転がしていく。
敵陣上空に照明弾みたいな物が上がる。
本陣まで攻撃され、敵は一時後退の様相。
こちらも一息入れよう。
活力魔法設置発動。
バイタルキュア・スフィア。
戦闘ログに解析……
と、範囲指定、演算魔法。
敵兵撃破数、およそ700超。
戦力比、300対4300弱。
まだまだ敵が圧倒的ではあるが。
ここまで損害ゼロ。
戦果ではこちらが圧倒している。
「連れて来たぜー」
「ここここ殺しなさいっ!」
マルカが引っ張って来た。
白甲冑、やはり第8公女。
辱めを受けるぐらいなら死ぬだ?
ユッタとマリナ、フェドラが笑い出す。
あったなー。前にも似た様な事が。
公女殿下にも、身代金にも興味は無い。
人質を取った目的は休戦交渉だ。
魔王軍と公国軍の2方面作戦、
これを中断させたい。
問題は……敵軍が遥かに後退している。
どう連絡を取り付けた物か。
ぼんやりと、放棄された敵陣跡を見る。
……ん? 何か見えた。
天幕爆破でコケた銀髪貴族。
まだコケているのか。
探知、解析。
HP残量は7割強だが。
動く気配が無い。
詳しく解析する。
状態異常、恐怖、悲嘆、絶望。
何。どうしたの。
置き去りにされた。
悲嘆や絶望は分かるとして。
恐怖。撃たれると思って動けないのか。
降伏の作法とか教わらないんだろうかな。
他に敵が居ないのを確認、回収に向かう。
向かってみると、横倒れの公女様。
気の強そうな顔だ。
第5公女リュドミラの方か。
しかし、腰の辺りに水溜まり。
ちょっとアレな臭気。
目が合うなり泣き出す。
解析表示に羞恥と屈辱が追記された。
絶望って、ええー……
そっち方面かよ……
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