黒鷲の旅団
9日目(6)泣かないでリュドミラちゃん

「ふぐっ……うう、見るなあ。殺せー。
 お願い、殺して……もう嫌あぁ……
 うええええええん……」

 第5公女リュドミラ、号泣。
 失禁ぐらいでそんな泣かんでも。

『おっちゃん、大丈夫ー?』
『何かあった? 手伝おうか?』

 俺が動かんので、子供達から通信。
 あー、うん、ちょっと。
 痛い事になっているから。
 処置したら戻るから。
 先に行って休んでなさい。

『ほどほどにねー?』

 フェドラさん、何を程々なんだ。
 捕虜に乱暴したりしないから。

 通信で子供と喋っている。
 乱暴しないと聞こえたからか。
 リュドミラの探知情報に変化。
 敵対の赤から中立の黄色へ。
 状態異常の恐怖も消える。
 警戒・緊張程度に緩和した。

 緩和したのは良いとして。
 処置はどうしよう。
 抱き上げようにもベッチョリだし。
 お漏らしを知られたくも無いだろう。

 並列発動、水・浄化。
 連続並列、中和・分解。
 洗浄魔法ディタージ。

 並列発動、節制悪臭・中和。
 連続並列、解毒・分解。
 速射並列、浄化・風。
 消臭魔法ディオドライズ。

 並列発動、節制焦熱・風。
 連続並列、中和・撹拌。
 温風魔法ワームウインド。

 並列発動、調香・植物。
 連続並列、節制魅了・節制陶酔。
 芳香魔法パフュームミスト。

 あとは水溜まりを土魔法で埋めて。
 そこそこ手間と魔力を食ったが。
 失禁公女とは分かるまい。

「凄い……あっ、コホン。
 のっ、の、望みの褒美を差し上げます。
 此度の事は、どうか、どうか内密に」

 はい。では、望みの褒美をクダサイ。
 俺はリュドミラを抱き上げる。

「あっ、え、あ…………私!?
 ちょっ、待って。何を。
 せ、せっ、せめて物陰で」

 何を想像してるんだ。
 休戦だよ、休戦。
 あんたにも交渉の席に就いて貰う。
 ここ最近、忙し過ぎる。
 稼ぎ時っても限度があるわ。

 リュドミラを横抱きにして本陣に戻る。
 途中、少し話をした。
 撤退中、周りには配下も居たと思うが。
 置いて行けと言ったのはリュドミラ自身?

 助けようとした騎士は居た?
 しかし男だったので警戒したという。
 揺すりのネタにされても困る、か。
 他人の俺より口封じもし易いだろうに。

 このリュドミラ曰く。
 公王とやらには正妃1人、側室3人。
 要は奥さんが4人居るらしい。
 それぞれの子供が継承後方。
 次期頭首の座を巡って争っている。

 そんな競争している中で。
 失禁公女なんて知れたら何を言われるか。
 自分が恥ずかしいだけでは済まない。
 同じ母を持つ兄達にまで迷惑が掛かる。

 なるほど。
 他人の俺より自軍の競合相手の方が怖い。

 マコトシヤカも他国の者なら。
 まだ、虚偽の中傷だ、で済む。

 自軍の悪党だと状況が悪化する。
 政敵に知られたくなければ云々。
 より無茶な要求をされかねない。

 まあ、あんたが俺の子供だったら。
 恥掻いても何しても、生き延びて欲しい。
 控えめに見て、勿体無い。

 美人に生まれついたのは幸運だった。
 などと得意げに言うのだが。
 洞察力も大したモンじゃないか?

 付与術士が狙われている、
 これに一番に気付いた。
 だから天幕に駆け込んだ。
 巻き添えで引っ繰り返っただろう。

 容姿以外を褒められたのは初めてだと。
 周りの男に見る目が無いなぁ。
 あるいは怖いぐらいの才女だ。
 声も掛けられないか。

 政争。腹の内の探り合い。
 頭の切れる奴が味方に1人居る。
 それだけで大きく違う。
 あんたが死ぬのは損失だ。
 あんたの兄さんにも勿体無い事だ。

 今回の事は……まあ、女の子だから。
 泣いちゃうのだって仕方ない。
 女の子なんだから。

 例えば、恐かったんだと同情を引いて。
 助けなかった異母兄を糾弾するとかな。
 同じカードでも使い様だと思う。

 まあでも、カッコ悪いのは嫌か。
 自分からバラさなくても良いか。

 そんな話をして。
 幾らか気が楽になったか。
 リュドミラ公女は少し笑った。

 味方陣地に戻る。
 と。羨ましげな眼を向ける子が数人。
 お姫様抱っこに憧れでもあるのか。
 順番なー。
 えっ良いの?とカリマが跳ねる。
 他の子達もソワソワ。

 それより不満げなのが1名。
 先に捕らえた第5公女ヒルデブルク。
 リュドミラの扱いが自分と違う?

 えー、あー……順番なー?




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