黒鷲の旅団
9日目(7)ぐりんぐりん、ぎっくし
「きゃははは!
回って回ってー!」
「次、あたし!
あたしの番だよー!」
はい抱っこー。はい次ー。
流れに流されてしまった。
お姫様抱っこ体験会が始まっていた。
戦況。休戦交渉を取り付けたい。
騎士団から軍使を派遣。
後退した敵軍とは距離がある。
行って戻るにも時間が掛かる。
つまりは暇だ。時間潰し。
情勢としては問題無い。
子供達にも概ね好評なんだが。
しかし、ちょっと腰に来る。
腰に来るけど……後悔なんてしない。
よしよし、みんな可愛い。
可愛いぞー。
面白いのは、子供達の後方。
第5公女ヒルデブルク。
言われるまま並んでしまったか。
段々恥ずかしくなって来た。
しかし、そのすぐ後ろ。
魔人デルフィアンヌ。
更に後ろには花人達がぞろぞろと。
もう抜けるに抜けられない空気。
「おっちゃん、早く抱いてー」
ティルアちゃん、表現が悪い。
遠くで聞いたら誤解しないか、それ。
次、ヒルデブルクさん。
ギクシャク。表情が硬い。
次、アンヌ。ゲラゲラ笑う。
そんなに楽しいか。
花人さん達は意外と重い。
水気のせいだろうか。
はい抱っこー。はい次ー。
抱き上げてはグリングリン。
横に回ってやる。
子供達の反応は上々。
遊園地の回転遊具みたいだ。
もしも遊具に心があったなら。
こう楽しまれたら誇らしいか。
それとも単に……うえっぷ。
目が回り、腰も痛くなって来た。
すまんが休憩を貰う。
早く早くと、カリマ。
背中をてしてし叩いて来る。
分かった。分かったから。
ちょっと待って。
というか、お前さん。
もう抱っこしなかったか。
2周目を待ってる?
いや待て。マジか。
振り返れば、延々、続々。
終わった子が次々と列の後ろへ。
「うおーい、何してんの?
和気藹々と」
イーディス公主、参陣。
南の方、魔王軍との戦い。
どうやら一段落したらしい。
もっとも敵将には逃げられた。
休戦には持ち込めなかった。
で、こちらの交渉に期待している。
交渉役が来たという。
俺も向かおう。
まだの子は後で。
2巡目はまたの機会に。
「もう1回。もう1回はー?」
てしてし叩いて来るカリマ。
はいはい分かった分かった。
肩車だ。天幕の前までだぞー?
お前ちゃんは本当に甘えん坊だな。
交渉の席。
相手側は第2公子ディートリッヒ。
弟妹達と、護衛役が数人。
あと魔人ブランディエーヌさん。
こちらはイーディス公主。
俺。騎士団長と騎士達。
捕虜のヒルデブルクとリュドミラ。
物見遊山の魔人デルフィアンヌ。
こちらの姿を見たブラン。
何かディートリッヒに耳打ちして。
途端、ディートの顔が真っ赤になる。
氷の花の贈り主と聞いたのだろう。
「け、け、決闘だ!
ブランディエーヌ嬢の愛を掛けて!
僕と勝負しろ!」
断る。
一同、ポカーン。即答過ぎたか。
しかし、恋路よりも戦争解決だ。
我々は将兵の命を預かっている。
こちらで預かっている妹さん2人。
無傷で返還したいと思うが。
条件は休戦だ。
休戦期間について話し合いたい。
「戦いで雌雄を決すれば良い物を。
妹達にせよ、力で取り返すまでだ」
「いやあ、兄上殿。
今回はここが引き際では?
許してくれと言っているのではない。
なかなか怖い奴だな」
屈強な軍人然とした、第3公子か。
マクシミリアンが不満げ。
対する小太りの男。
第4公子エドヴァルト。
武勇よりも頭が回ると見える。
ディートリッヒは興味が無い様で。
交渉自体は任せると言う。
第8公女ユスティーナ。
第11公女シャルロッテも休戦に賛成。
マクシミリアンに折れて貰う。
方針は休戦に決まる。
一時休戦。
書類書いて貰って調印式。
期限は3日。
お互い3日は軍を動かさないと約束する。
それ以降は情勢次第だな。
再度の宣戦布告を行う事。
「ふふん?
何度か約束破られてるけどねぇ〜?」
「はっは。
それはそちらも同じ事では?」
ニコニコしながらドス黒い気配。
イーディスとエドヴァルト。
ホント頼むよ。3日だけでも。
「話は済んだな。では、決闘だ!」
まだ言ってるディートリッヒ。
断固として断る。
花束を撃ったのは悪かったが。
俺は恋路に口を出す気は無い。
ブランに求婚しているんじゃなくて。
そして何より、腰が痛いんだよ。
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