黒鷲の旅団
9日目(8)無事に帰るまでが戦争です

「体調不良とは仕方がない。
 だが、次に会った時!
 次こそ決闘を受けて貰う!
 首を洗って待っているが良い!」

 第2公子ディートリッヒ。
 因縁を付けられてしまった。
 敵の中に、目の敵にして来る奴が居る。
 どうにも面倒臭いな。

 無事に帰した公女達は友好的か?
 第4公子辺りも話が通じそうだが。

 ともあれ、お引き取り頂こう。
 公子公女は北へ。
 魔人姉妹へ南へ帰……

 ちょっと待った。
 アンヌにお土産を持たせる。
 約束通り、敵側で参戦しなかった。
 こちらも義理を果たしておく。

「なあにぃ、ご褒美って事?
 子供扱いしてくれるじゃない」

 バカにして、との口ぶりだが。
 目元・口元は笑っている。
 何だかんだ嬉しい様子。
 お姫抱っこにも参加していたし。
 性根は人懐っこいのだろうか。

 魔法伝授で欲しいのはあるか?
 解析魔法。スキルリストをオープン。

「うーん……
 手下のオークとかって、くっさいの。
 芳香魔法って奴で何とかならない?」

 良い匂いのするオーク。
 それはそれで何か嫌じゃない?

「ぷっふふ、本当だわね!
 じゃあ、こっち。消臭魔法」

「わたくしは?
 わたくしも何か欲しいですわ」

 ああ、はい。ブランさんには氷花魔法。
 良かったら自分でも作ってみてください。

 ついでに聞く。
 ディートリッヒとの婚約について。
 お父様の指示、だそうだ。
 特に望むとも望まないともないのか。

 アンヌちゃんの声は聴いた?
 相手が気に入らない様なのだが。
 しかし、お父様の命令なので、という。

「ブラン姉は特に綺麗ドコロだから。
 政治に利用されてるのよ。
 今度のも、手玉に取ったんでしょ?
 魅了とか催淫掛けて。
 ブラン姉が汚されてくの、何か嫌だわ」

「あら、今度は誠実な方ですのよ?
 婚前交渉の責任は取るって」

 婚前、の時点で、誠実でもない気が。
 いや、罠に掛かっての事だ。
 責任を取る意思があると見るのか?

「でも今日……初めて。
 魅了してない殿方からお花を貰ったの。
 これは、そうね。
 嬉しかった、ですかしら」

 ブラン、しみじみ。
 解けかかった氷の花を見つめる。
 というか、まだ持ってたのか。
 単に綺麗な物が好きなのかも知れない。

 魔人姉妹も帰途へ。
 また会おうと言って去って行く。
 俺達も帰ろう。
 腹が減った。あと腰が痛い。
 何か気にしたユッタとマリナ。
 俺の背中をさすって来る。

 さすさすさすさす。摩擦で熱い。

「ぶふふふ。
 お爺さんみたいになってるわよ」

 上機嫌な様子のイーディス公主。
 久々に敵襲を凌いだ。
 希望でも見えてきたかな。

 後で魔王軍対策会議をやるらしい。
 俺は辞退。腰が痛いので。

 と、背後にイェンナとティルア。
 さすさすさすさす。
 ごしゅごしゅごしゅごしゅ。
 熱い。あっちぃから。
 さては、わざとやってるだろ。

 会議の結果は後で知らせてくれるという。
 輜重隊で給金を受け取って。
 まだ見習いだった子はクラスチェンジ。
 賃上げは次回からだが。
 それでもパラメータ補正が嬉しい。

 それと魔女達に特許申請。
 消臭魔法と爆薬魔法を。

 爆薬魔法。
 これは爆発物の塊を生み出す魔法。
 物質だ。魔法反射では透過する。
 かつ、高威力。
 簡単な物理障壁なら引っ繰り返して……

 ぐううううう。
 説明中、ジズ様の腹が鳴ってしまった。
 気にするな。俺も腹は減った。

 総員整列。3列縦隊。
 北門から街に入る。
 隊列を組んで酒場に向かう。

 探知、空間魔法を展開。
 各自、油断無く。
 怪しい奴に目を光らせつつ。
 中央通りを行進する。

 北区のグンター達が道を折れる。
 ランカー隊が一緒に離脱。
 北東部の銃士協会へ。

 中央区に向かう公主様と敬礼。

 南区のフィン達は?
 イェルマイン隊が送ってくれる様子。

 表通りを折れて東区へ。
 途端、探知反応に黄色多数。
 想定内だが、待ち伏せだな。

 ダニエルの一味だろうか。
 あるいはディートリッヒの刺客?
 まだ黄色、中立反応。
 こちらからは手を出すなよ?

 ふと、青反応が2つ。
 2つ現れて、素早く動いた。
 黄色反応がパパパと消えて……何だ?

 黄色マークを消した。殺したのか。
 見掛けの脅威は減ったが。
 何か嫌な予感がする。

 探知情報。青マーカー。
 妙に息の合った2つの光点。
 正体を知りたい一方、危険も感じる。

 引率を魔女達に任せる。
 俺は裏通りを窺った。



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