黒鷲の旅団
9日目(9)双子の殺人人形

 裏通りを覗くと案の定、血の海だ。
 待ち伏せが全滅している。

 死体が10と幾つか。
 中に佇んでいるのは子供が2人。
 銀髪……ヘルヴィとヘレヴィか。

「「くすくす。こんにちは、お兄さん」」

 振り返る笑顔。澄んだ声でハモる。
 よくよく見れば双子だった。

 髪は相変わらずボサボサ。
 それでもシスターに整えて貰った様子。
 少し上げた前髪の下は美少女にも見える。

「ヘレヴィ、元気になったわ。ありがとう」
「ヘルヴィ、元気になったわ。ありがとう」

 ああ、うん……そうか。良かった。
 あとは血の海でなければな。
 手放しで喜べたんだが。

 ナイフが欲しいなどと言っていた。
 その時点で予感はあった。
 この子達は戦闘技能がある。
 暗殺術か何かを仕込まれている。

 解析。レベルも50台。
 俺より強いな。
 奴隷になっていたのは何だ。
 任務に失敗でもしたんだろうか。

 まあ、事を構えるつもりは無い。
 恩返しか何か。
 待ち伏せを掃除してくれた様ではある。

 しかし、それ以上に金だった。
 死体の中から硬貨を抜き取るヘルヴィ。
 解放奴隷からの再出発。
 まずは路銀が要るのだろう。
 組織に戻るにせよ、逃げるにせよ。

「おい、そこで何をしている!」

 憲兵隊の声。双子が身構えるが、待て。
 透明、隠密魔法。双子の姿を消す。

「うわ、酷いな」
「お、おええぇ……」
「全部お前がやったのか!?」

 醜く撒き散らされた死体。
 顔をしかめる憲兵達。

 下手人は俺じゃないな。
 俺が来た時点で、このザマだ。
 武器を確かめてくれて良い。

 魔法を使った可能性は?
 そうだ。追跡魔法による証明が必要か。
 東区の酒場に大魔女達が居る。
 使いをやってくれ。

 憲兵達が俺の武器を調べる。
 俺は魔法仕掛けのマネーカードを操作。
 後ろ手に金貨を出す。
 金貨10枚。
 神人の表示金額にして100万相当。

 手招きすると、双子も気付いたか。
 気配が寄って来る。
 金貨が消える感覚。
 恩に着るわ、と聞こえた気がした。

 使いをやった大魔女は。
 フリアさんとレイヴン婆さんが来てくれた。
 レイヴン婆さんがケヒヒと笑う。
 透明魔法の痕跡に気付かれた?
 それでも、俺の殺人容疑は晴らしてくれた。

「今度は何に首を突っ込んだやら」
「危険冒険は人生のスパイスさ。そうだろ?」

 婆さんはどこまで気付いたのだろう。
 遠見の魔法か心でも見透かせるのか。
 そんなモンさ、と婆さんが俺の肩を叩く。

 ……おい、マジか。
 凄いな魔法熟練者。

「あ、戻って来た」
「おっちゃん遅いぞー」

 酒場に戻る。
 子供達が駆け寄って来る。
 昼飯は……まだだった?
 俺が来るのを待っていたのか。

「待ちくたびれたよ。
 ごっはん、ごはんー♪」

「ごはんっ、ごはんっ♪」

 食器を両手に、ティルアとカリマ。
 ぴょい、ぴょい、ぴょこ、ぴょん。
 ぴょん、ぴょこ、ぴょい、ぴょい。

「ぶふふ……やべぇ。
 ナニコレ。超萌える」

 酒場の隅で悶えているのはロッシィか。
 サナトス、グレッグ一行の姿。
 会議は面倒なのでパスしたらしい。

 グレッグとイメルさんが居る。
 聞いてみる。
 子供の暗殺者について。
 子供を使う組織なんて知らないか?

「それは『子供の家』とかいう奴か。
 確か『殺人人形』だったかな?」

 イメルさん曰く。
『子供の家』は暗殺者の組織の1つ。
 二束三文で孤児を買い叩く。
 暗殺の英才教育を施すらしい。

 裏社会の英才教育。
 諜報、暗殺、破壊工作、その他諸々。
 子供の容姿で油断させる。
 それで寝首を掻いたりするワケだ。

 その組織でも選りすぐり。
 エースに相当する『殺人人形』達。
 暗殺技術に長ける。
 かつ容姿端麗な者の集団。
 容姿。色仕掛け等も仕込まれているらしい。

 凄腕になるとイメルさんでも敵わない?
 そりゃ、どっちだ。色仕掛けの方か。

「ぶふははは!
 私は、そっち方面は専門外だよ。
 ともかく連中は率直に言ってヤバい。
 目的達成の為なら何だってやる。
 魔人ほどじゃないにせよ。
 関わらん方が良い」

 もう関わってしまった感。
 ヘルヴィとヘレヴィ。
 十中八九、その『お人形』だ。

 目的達成の為なら何でもやる子供。
 囲い込んで子供達と衝突しても怖い。
 しかし境遇。不憫は不憫だ。
 頼られたら無下にも出来ない。
 上手い距離感で落ち着けると良いんだが。

「そいつは綱渡りだ。
 途中で止まれないモンさね。
 もう渡り出したんだ。
 後は上手くやるしかない。
 お婆も知恵を貸してやるさ。
 気を強くお持ち」

 心を読めるレイヴン婆さん。
 そうだな、戻り様も無いか。
 落し所は考えておかないと……



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