黒鷲の旅団
9日目(12)落ち行く日、森の彼方へ

 夕暮れまでに村まで辿り着きたい。
 2列縦隊の長蛇陣で急ぐ。
 探知、空間、加速魔法展開。

 道案内はマルカ、ティルア。
 先行してくれ。
 俺は最後から行く。
 脱落者を復帰させながら。

『右前、ゴブリン6、オオカミ4だ。
 気付いてないけど、無視する?』

 ティルアの報告。攻撃しよう。
 後ろから追われて囲まれたくない。
 急ぎの道だが安全も大事だ。

 丘を越え、林を抜けて、次の丘へ。
 田畑の小道を突っ切って。
 小さな集落を駆け抜けて行く。
 目指すは3つばかり西、森の中の村だ。

『敵だ! 左から寄って来てる!』

 集落を1つ抜けた所で、敵反応が複数。
 マルカ、それは俺がやる。先に行け。

 軽装のゴブリン程度……
 縮地で接近。
 自動小銃、突撃銃の2丁撃ち。
 殲滅。また縮地で隊列に戻る。

 カーチャとアイリスがバテて来たか。
 後ろに寄って来るので活力魔法。
 また元気になった。
 ぐんぐん追い上げて行く。

『やべぇ、キマイラ……うおぅ!』

 マルカ、攻撃された?
 通信を受け取った、その途端。
 複数の味方マークが急加速。
 すぐ救援に向かってくれる。
 流石のチームワーク。

 マルカ、マルカ……大丈夫か?

『だ、だいじょぶ!』
『解毒魔法してます!』

 毒を浴びたが、マリナの処置。
 解毒魔法で処置したか。

 先導をティルアに任せる。
 マルカ、マリナ、少し止まってて。
 ユッタ、レーネ、先頭に追従。
 ティルアのフォローを。

 遅れがちな子を支援しつつ。
 マルカの所に辿り着く。
 キマイラは複数のツタで串刺しだった。
 花人達が猛攻を仕掛けたらしい。

 マルカを診察。
 よし、マリナは上手く治している。
 一度、誰が何出来るか。
 手札を確認した方が良いかな。

『サイクロ……うっわ。
 何でもなかったー!』

 ティルアの通信と、地響き。
 遠見魔法……
 サイクロプス、が死んどる。
 え、瞬殺? 誰が? 集中攻撃か。

 ランニングも1時間。
 活力魔法でも息が上がって来た。

 ティルア、前方の丘の上で一旦停止。
 追いついた者から制圧射撃。
 ユッタ、俺のラティオを任せる。

『任せっ? え、えと……
 コールストレージっ!』

 狙撃銃、ウルティマ・ラティオ。
 俺の手元から消える。
 丘の上で発砲音。
 反響音が後から響く。

 ユッタ、転移魔法レベル5に到達。
 所持品を呼び出す魔法を習得した。

 俺が譲渡を宣言。主有権を移す。
 俺の物を回して使える。
 魔力の消費も小さい。
 活用機会は多いだろう。

 丘に到着。脱落者、無し。
 負傷者は……カリマがコケてた?
 フェドラがもう治した後か。
 泣かなかったよ、と得意げ。
 よーし偉いぞ、よしよしよしよし。

「おっちゃん、ずるいー。
 カリマにばっかり甘いぞー」

 それは違う。みんなに甘いんだ。
 ティルアも偉いぞー。
 よーしよしよしよし。

「あっ、ちょ、いいってば……
 それより早く行こうよ」

 村の方が気になるか。
 だが、あと5分休憩する。

 カーチャとアイリスは順調。
 ペースを掴んだ様だが。
 ノイエ、ジェマ、ペトリナが苦戦。
 まだ呼吸が乱れている。

 サンドラちゃんは案外タフだな。
 解析情報、スタミナゲージが一番長い。

「あっ、あれ!」

 イェンナが何か気付いた。
 遠方に火の手が上がっている。
 マルカ達の村……じゃないな。

 スコープで確認。
 集落が襲撃されている。
 襲っているのは魔物か。

 助けなきゃ、とユッタだが。
 待て。魔物の中に女が2人。
 側頭部に巻き角。魔人だ。
 手を出して勝てる相手じゃない。
 ないから、交渉する。

 交渉するが……通信先が分からん。
 面識がアドレス代わりか?
 知らない相手には通信出来ない。

 デルフィアンヌを中継する。
 アンヌ、少し話したい。
 西側の集落を襲っているのは誰だ?

『西!? あ、えっと……
 ジュス姉、聞こえる?」

『はいはーい。
 アンヌじゃん。どした?』

 魔人ジュスティアーヌ。
 創造の魔人だと名乗る。
 錬金術やら得意だそうで。

 交渉。まず要望を。
 逃げる者まで追わないでやって。

『えー、捕まえときたいんだけど』

『お姉、交換よ。
 そいつ魔法教えてくれるわ』

 アンヌが助け舟を出してくれた。

 少しして魔物の動きが変わる。
 一安心、かな……




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