黒鷲の旅団
9日目(13)魔人の事情

 子供達を丘の上で待たせつつ。
 俺は少し降りた所で魔人達を待った。

「ホント使ってくれるわね。
 まあ、退屈しないから良いけど」

 先に来たのはデルフィアンヌ。
 転移魔法で飛んで来た様だ。
 繋ぎを作って貰った。
 何か提供しないと。

「芳香、地裂……うーん。
 レベル上がってないわね。
 低いと伝授出来ないらしいわよ。
 上げときなさいな。
 こっちのクンセーって何?」

 燻製魔法を披露。
 ボア肉を燻製にする。
 アンヌに食べさせてみると、

「んふっ! ……ふふん?
 まあまあだわね。これにするわ」

 気に入った様だ。
 燻製魔法を伝授。
 アンヌの『まあまあ』。
 字面よりも評価が高い。

「ん、来たわ。遅いわよ、ジュス姉」

 後から魔人が2……いや。3人。
 もう1人居たのか
 フードを被った魔術師らしいのが1人。

「やあやあ、お待たせー。
 キミが魔法の先生さん?」

 創造の魔人ジュスティアーヌ。
 肩までで切った髪。
 少しボーイッシュな印象。
 レベルは1021。
 気さくなんだが脅威度は一番高い。

「アンヌ姉様、こいつが?
 あんまり強そうに見えないけど」

 騎獣の魔人ベルナディエンヌ。
 レベルは717。
 アンヌより一回り小柄。活発そう。

「む、霧霜卿……人界の術士殿。
 ご、ご、ご高名。
 かねがね……かねがね……」

 魔道の魔人ヴァランティエーヌ。
 フードの女。レベルは864。
 酷く暗い目をしている。
 どこか悪い……違う?
 極度の口下手?

 俺も聞きたい事は多いが。
 アンヌが口を挟む。

「北方方面軍は私達の管轄でしょう?
 どうしてジュス姉達が出て来るワケ?」

「ああ、うん。
 キミ達で済んだら穏当だったけど。
 シュテルン公国の休戦。
 陥落しないブカレスト。
 お父様は、進軍が滞ってると思ってる。
 他に手があれば、なんて言ってさ。
『根絶』と『享楽』が名乗りを上げてる」

「享楽のリュディヴィエーヌ!
 最悪じゃない!」

 魔王軍も一枚岩ではないらしい。
 腹違いの兄弟姉妹が競争している。
 しかし後継者問題では無いらしく。

 ……何、魔王様って神人なのか?

「あれ、言ってなかったっけ」

 聞いてはいないが……そうか。

 神人で魔王。魔王プレイ。
 神人だから延々成長する。
 殺しても生き返る。
 そんなモン、どうやって倒すんだ。
 繰り返し倒してレベルダウン?
 何か拘束して無力化するとか?

 そして死なないんだ。
 後継者も必要無い。
 では魔人の兄弟姉妹の対立は。
 思想的な派閥で割れている様だ。

 人類擁護派。
 擁護と言っても支配的だが。
 人間の文化や生活様式。
 幾らかの興味を持っている。
 投降した人類は、監視下に置く。
 ジュスティアーヌ。
 ヴァランティエーヌもこちら側。

 人類統治派。
 力で屈服させ、支配。
 兵隊として労働力として。
 知恵者は助言役として利用する。
 流石に歯向かえば殺すと言うが。
 それでもまだ穏当な方か。
 ブランやアンヌ。
 ベルナディエンヌもここに属する。

 人類迫害派。
 支配は支配だが扱いが悪い。
 人類は家畜、食料、
 あるいは実験動物に装用。
 楽しむ為に弄んで殺す事もある。
 享楽のリュディヴィエーヌ等が所属。

 人類根絶派。
 魔王様に楯突く人類など滅ぼす派。
 手向かう者だけでない。
 手向かわない者も殺す。
 根絶の魔人ヴィクトリエーナ等。

 現在、擁護派と統治派が共同作戦中。
 横槍を入れられたくない。
 戦果が上がっているアピール。
 迫害派、根絶派に対する牽制か。

 今の村の状況は?
 全体の2割程度が逃げた様だ。
 俺の通信以降は殺していないと主張する。

 ただ、村に残った奴らは全滅か。
 戦って死んだ者も居たとして。
 自害した者も居た様だ。

「魔王軍に下るぐらいなら〜ってさ。
 そこまで嫌われてると思わなかった。
 さっさと逃がせば良かったんだね。
 なー、なんかゴメン」

 バツが悪い様子のジュスティアーヌ。
 生活様式に興味を持つぐらいだ。
 人間と魔人では考え方から違うか。

 俺も、逃げる者を追うなと。
 それ以上は説明してない。
 約束は約束だ。魔法を提供する。

 ジュスに水蒸気魔法。
 ベルナに縫合魔法。
 ヴァランには創傷魔法を伝授した。

 新魔法に食い付きが良い魔人達。
 他派閥とは交戦機会もある。
 手札が欲しいのか。
 いや、燻製魔法は趣味魔法だけれども。

 行先の村について。
 特に情報は無いか。
 ただ、侵略の対象に入りそうだと。
 避難を勧められる。
 他派閥も動くかも知れんのか。
 分かった。掛け合ってみよう。



前へトップへ次へ