黒鷲の旅団
9日目(15)境遇の親戚

「すまない。何から何まで……」

 レイニさんの怪我。
 診断によると捻挫の様だった。
 治癒魔法を掛ける。
 濡らした布を巻いて患部を冷やす。
 後は負ぶって運んで行く。

 レイニさんの証言に寄ると。
 街道が魔物に脅かされている。
 村は森に囲まれている。
 食料が不足しがち。
 止む無く狩りに出た。出たものの。
 トロールに出くわした。
 逆に食料にされる所だったと溜息。

 トロール。難敵だったな。
 皮が厚く、普通の攻撃では徹り難い。
 戦い方を確立して行かないと。

「でもよー。
『村付き』の兄ちゃん達は?」

「ラムゼイ達なら死んだ。3日前だ。
 もう村付き冒険者と呼べるのは。
 残ってるのはマルカだけだな」

 唐突な訃報。
 マルカ達の顔が青くなる。
 大人の冒険者でも死ぬ状況か。

 過剰に怖がらなくて良いが。
 しかし警戒は続けよう。
 村に着くと、松明を掲げた大人達の姿。

「狩りは……狩りはどうだった」

「すまない。失敗した。
 だが、援軍が」

「援軍なんていい!
 食い物はどうした!」

「そうだ、食い物が先だ!」

 殺気立っている村人達。
 他人に頼っておいて偉そうな事だ。

 俺の手持ちからオオカミやボアの肉を。
 提示した途端、村人達は殺到。
 引っ手繰る様に持って行かれた。

 苦しいのは分かるのだが。
 態度が良くないなあ。
 遠巻きに見守る連中も怪訝な顔。

「援軍? 子供ばっかりじゃないか」
「魔物なんか連れて、信用できるのかね」
「義手つけてるが、あれで戦えるのか?」
「歴戦の、って奴かな?」
「どうかな。見掛け倒しかも分からん」

 歓迎ムードとは言い難いな。どうするか。
 まずはマルカ達の金を届けようか。
 案内で向かう先は……村外れの、廃教会?

「ヒッ! だ、誰……ですか?」

 違った。人が居た。
 ボロなだけで廃教会じゃなかった。

「マイナ姉ちゃん、帰ったよー!」
「この人が助けてくれたんだよ」
「ああああなた達、よく無事で……」

 教会に居たのは、シスター。
 卑屈な表情をしたシスターが1人。
 右足が義足。
 右目も悪いのか眼帯をしていた。

 こちらも、あまり歓迎されていないかな。
 そんな事はとシスターだが、
 見るからに怯えている。

 マルカ達、ジト目。
 姉ちゃんを虐めるなと怒られてしまった。

 えー……どういう暮らしを?

 僻地の教会。
 神聖教会の威光があまり届かない。
 給付金も少なく貧窮している。
 だからマルカが冒険者の仕事をする。
 稼ぎで暮らしを支えていたらしい。

 シスターに懐く半亜人の孤児達。
 気の毒がって面倒を見ているとか。
 自身の欠損もあって、被差別か。
 相哀れむという奴かな。
 それぞれ村人から疎まれている様子。

 こちらは、まず俺がハインリヒ。
 一応冒険者の……

「超ロリコンでー。
 超お人好しなんだぜ!」

 マルカ、酷い風評だ。

 実際、女の子ばかり連れている。
 そんな噂も立つだろうけど。
 そんな所に超をつけて強調しない。

「あとはねー。
 半亜人とか孤児の仲間達。
 ほら、ちょっと仲間っぽいだろー?」

 ティルア、仲間って。
 それは俺とマイナさんの事かな?
 義手をワキワキさせて見せる。
 ようやくシスターが少し笑った。

 夕食にしたいが、教会は貧窮している。
 食料はこちらで用意しよう。

 教会の裏手で焚火をしよう。
 火と水は魔法で出す。
 残っていたボア肉、オオカミ肉。
 キノコとハーブもある。

 花人達も農耕魔法。
 野菜を生やしてくれる。
 イモ、カボチャ、タマネギ……

 ん? ジェマやフレヤ。
 タマネギは平気か?

 半獣人、半分人間。
 食べられなくも無い様だが。
 食べるとお腹がゴロゴロに……
 そうか。避けて食べようか。

「すいません。私が食べる物まで。
 お、お勤めは、必ずしますので」

 お勤め?は分からんけど。
 困った時はお互い様だ。
 食費代わりに食器や厨房を借りたい。

「そーだ、あれ作ってよ。
 イモ。イモあるじゃん」

「揚げたイモだね!」
「ジュワーって奴だ!」
「ジュワー!」

 はいはい、分かった分かった。

 子供達のご要望。
 フライドポテトを作る。
 食用油はイェンナが買い溜めていた。
 俺にくれる宣言。覚えたな。
 転移魔法コールストレージ。
 有難く使わせて貰う。

 ふと、教会の裏手口。
 匂いに釣られたかな。
 外から様子を窺う少女が2人。
 おいでと呼ぶと、後ろからぞろぞろと。

 そんなに居るとは想定外だが。
 いいや、もう。みんな食ってけ。



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