黒鷲の旅団
9日目(16)窮乏の村

「スゲェ、イモなのにうまい!」
「はふっはふはふ!」
「あっちち! でも、んめー!」

 フライドポテトを頬張る子供達。
 この村の子達にも好評な様だ。
 肉野菜炒めも出す。
 野菜たっぷりスープも振舞う。
 俺はすっかり料理係だ。

 豪華ではないが、それなりの量。
 そして貧窮していた村の子達。
 久々にお腹いっぱいの様子。
 すぐに動けない。
 焚火を囲んで談話する。

 村出身のマルカが得意げに話す。
 トロールを退治した事。
 変身する仲間が居た事。
 竜人化しても嫌がられなかった事。

「やったね、マルカ!」
「仲間が見つかったんだぁ〜」

「へへ……仲間ってもさ。
 竜人じゃないんだけどな。
 2人ともスゲェ強いんだぜ」

 村の子供達の反応。
 うちの子達に対して抵抗が少ない。
 マルカ達との交流の成果だろう。

 しかし親達の印象はどうか。
 あまり亜人と遊ぶなと言われている様子。
 閉塞的な田舎だ。
 都会より差別が強いらしい。

 少し交流した結果。
 幾らか人となりを知る事が出来た。

 グレンとポーラが兄妹。
 レスターとエーベルが兄弟。

 地主の息子がユーリ。
 お嬢様イヴェッタの婚約者。

 アウドラ、ジルケ、ヨルクが4姉弟。
 一番上の姉は首都で出稼ぎ中。

 他の住人、子供達からの評価。
 村には感心しない若者も居るらしく。
 特に農夫アモスが意地悪。
 木こりの青年ユアンとデールが乱暴。
 マルカ達に石を投げたりする。
 シスターにも酷い事をしたとか。

 分かった。機会があれば仇討ちする。
 アモス達にも伝えておいてくれ。

「闇討ちですかっ?」
「やったるじぇ!」

 レーネ、サンドラ、気が早い。
 剣を取るな、駆け出すな。
 まだ脅しだから。

「おじさん、ありがとー!」
「明日も来ていい?」

 満足げに帰って行く、村の子供達。
 明日か。また肉とか狩って来ないと。
 この村は安心して暮らせる状況にない。

 足が痛む様子のレイニさん。
 悪いが証言を頼みたい。
 簡単な松葉杖を作って渡す。
 一緒に村の寄り合い所に出向こう。
 状況の説明を試みる。

 が、村長。
 開口一番、報酬なら出せんと。

 そんな話をしに来たんじゃない。
 優先すべき問題はトロールだ。
 魔王軍が近隣をうろついている。
 不安を煽ってなどと言うのは想定内。
 ここにレイニさんの証言を頼む。
 危険な状況なのは理解して貰う。

 俺も公主様には掛け合ってみる、が。
 黙って助けを待っていられない状況。
 守りを固めながら国軍の到着を待つ。
 あるいは、村を捨てての脱出。
 そこまで視野に入れておいて欲しい。

 村人達の前で、イーディス公主に通信。
 熟練レベル15からの通信魔法第4位。
 映像を追加する。
 流石に村長は公主の顔を知っていた様だ。

「なんと、公主様!?
 こ、これ、お前達、頭が高いぞ!」

『ん? ふふん、よしなに。
 で、あんたは何。
 私の声が聴きたくなった?
 なんつって。んふーん?
 なになに、どしたのどしたの?』

 平伏する村長達を横目に。
 公主は俺にプライベート口調。
 寝間着にケープを羽織った姿。
 何か照れ隠しでもあったか。

 そんな公主様に報告です。
 西側の街道閉鎖について……
 ん? 気付いても居なかった?

『くっそう、冒険者の奴ら。
 あたしへの報告止めてるわねー!?』

 魔王軍相手、援護に行けなかった件か。
 まだ尾を引いているのか?

 首都側でも攻防が続いている様子。
 首都に逃げて安全とは限らない。
 状況を見据える必要があるかな。

 公主としては、村に近衛隊を派遣。
 伝令、偵察、予備戦力として使えと。
 逃げるか守るか。
 彼女らが来てから決めよう。

「と、ところで公主様。
 こちらの方は、どういった……」

『ああ、そいつ?
 ママが好きだった人。
 あたしも割と好きよ?
 持て成せとは言わないけど。
 無礼やったらコレだかんね』

 さらっと爆弾発言。
 手ぶりで首チョンパ。
 この公主様は過激で困るな。

 冗談めかした公主ではあったが。
 それでも村長達。
 俺と公主が親しいと思った様だ。
 結局は頭を下げる。
 俺達にも村の守りを固めて欲しいと。
 何かしらの報酬は用意すると言う。

 俺達を囲っておく効果に期待、かな。
 公主も安易に見捨てるまいと。
 そういった思惑が見えなくもないが。

 まあ、近衛隊が来るまでの期限付きだ。
 それまでは面倒を見てやるさ。



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