黒鷲の旅団
9日目(17)払い渋りの予感

 レイニさん、そのまま村の会合へ参加。
 俺達の報酬について話し合う様だ。
 後から戻ると言う。
 俺は一足先に教会へ向かおう。

 と、教会へ戻る途中。
 花人ベゴニエッタが道に座り込んでいた。
 エッタは悲しげな顔。
 背中をさすっているのはヨルク少年。
 周りには野菜が散らばって。
 どうした。何かあった?

「お父さん達がね。
 魔物の野菜なんて気味が悪いって」

 良かれと思って野菜を提供したエッタ。
 しかし、花人。魔物故に。
 村人から拒否されてしまった様だ。

 ヨルク、拾うのを手伝ってくれるか?
 エッタ、俺が食べるから。元気出してな。

 野菜を持ってくれるヨルク。
 俺はへたり込んだエッタを負ぶって帰る。

「私、悲しい……あーうー……」

「明日、食べに来るから。
 食べに来るからねっ」

 ヨルクもエッタを励ましてくれた。
 お前さんは優しいなあ……

「あっ、パパさん帰って来た!」

 教会に着くと、声を上げるのはカリマ。
 パパさん。ああ、父親代わりの件。
 配達屋で偽造お父さんをしていた。
 その時の話が話題に上った様だ。

 子供達は遠出で疲れもある様だが。
 初めての遠足、夜更かし。
 まだまだテンションが高い。

 元気な内にお湯を使って。
 後は早めに寝る様に。
 また肉を獲りに行かないとだよ。

 教会の敷地の中。
 植物魔法で生け垣を作る。
 お湯を沸かして湯浴み。
 少々狭いので交代で使う。
 子供達、マイナさん、あとで俺だな。

 花人はお湯より冷水が欲しい様子。
 湯の順番を待つ間に俺が水魔法。
 水やりをする。

「えった、がんばー」
「あーう、がんばー」
「あーう」
「ああーう」
「あっふぅー」

 食事が済んだ花人達。
 ベゴニエッタを囲む。
 回って踊って、順繰りにハイタッチ。
 よく分からん励ましだが。
 エッタは笑顔になった。
 元気が出たなら良いか。

「あ、あの……
 湯浴みが済みましたので、その……」

 湯上り姿のマイナさん。
 ローブ姿が少し色っぽい?

 ティルアも一緒か。
 俺に背中流そうかと聞く。
 構わんから、先に寝なさい。

「うん……あ、あの、あのさ?
 マイナ姉ちゃんの事、頼むね。
 優しくしてやって欲しいな」

 うん……うん?
 何の話だ。
 何だか含みのある物言いだな。

 ともあれ湯浴みは、あとは俺だけ。
 まったりさせて貰おう。

 と、少しして。
 教会の方で話し声。
 男の声がした様だが。
 少し乱暴な口ぶりに聞こえた。

 妙な胸騒ぎ。
 洞察・直感スキルに何か引っ掛かった感。

 探知、空間、解析魔法……
 何が来た?
 教会内にマイナさん。
 と、農夫ウィルとドネリー。

 ウィルとドネリー、なのだが。
 識別マーカーが黄色だ。
 住民は普通、青マークだが。
 何か敵対に傾いている?

 不審に思い、隠密スキルで接近。
 教会内の様子を探る。

「ったく、まだ済ませてねーのかよ。
 待ってんだぜ、こっちはよぉ?」

「めかし込んで、何だ。
 何か期待してんのか?
 若い男に色気づきやがって。
 立場分かってんのか」

「わ、私、そんなつもりじゃ……」

 何やらマイナさんが虐められている。
 穏便に済ませたいが威圧も必要か?

 分かり易い両手剣を担いで姿を見せる。
 えー、そこで騒いでいるのは何だ。
 トロールか村人か。
 子供達を起こして欲しくないんだが。

「うおっ、と……
 こ、こりゃどうも」

「へへ、どうぞ、ごゆっくり。
 へへ、へへへへ……」

 こそこそっと逃げ帰って行く農夫達。
 何だったんだ、一体……
 マイナさんも、何でもないと言うが。
 深く怯えた顔。
 何でもない様には見えない。

「今の奴ら! マイナは無事か!?」

 と、レイニさんが帰って来て……
 こっちはこっちで剣呑な顔。

「ジジイどもめ。
 報酬はマイナとガキ共とか言い出した。
 金は私が必ず用意する。
 私が身体で払っても良い。
 だから、頼む。
 あいつらには手を出さないで欲しい」

 さっきの連中も、それか?
 その話をつけに来ていたのか。
 ティルアも何か勘付いていた様だが。

 報酬は金で欲しいなぁ……
 身体で払われたのでは。
 子供達と分配のしようが無い。

 せめて物納でも。
 資源らしい資源とかは無いのか?
 人間ぐらい?

 マイナさん達でダメならと。
 村娘も何人か候補に上がっているとか。
 とんでもない村だな。
 トロールと一緒に焼き払ったろか。

 まだ仕事らしい仕事もしなていない。
 報酬を頂くつもりは無い。
 最悪ツケでも良いんだ。
 金か物品で用意して欲しい。

 だから、マイナさん。
 今日は気にせず休みなさい。



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