黒鷲の旅団
9日目(19)戦場とほっこり

 着弾。戦闘ヘリ、撃墜。
 次、右前方に戦車。
 爆薬魔法付与……は、無いんだった。

 現実側。リアル傭兵稼業。
 戦闘車両で移動中。

「旦那、ハマってるっすねー」

 後ろの席でバリーがニヤニヤ。
 仕方ないだろう。
 始めて9日目だぞ。
 飽きる様な日数は続けていない。
 楽しいかはともかく目を離せないしな。

 無い物は無いので、代案。敵戦車。
 パンツァーファウストでもくれてやる。

 着弾、爆発。
 慌てて飛び出す敵兵は戦闘義体。
 丈夫で結構。
 レベル付けをしたら俺より少し上だろうか。
 そんな事を夢想しながら次の敵を探す。

「そういや、今日は北門に居たって?
 あー、ゲームの中でさ。っとお」

「うぶぇ」

 運転席のサナトスの問い。
 次いで急ハンドル。
 俺は咄嗟に耐ショック姿勢を取る。
 取り損ねたバリーがコケている。

 おい、話すのかブン回すのか。
 どっちかにしてくれ。

「悪い悪い……で、アレだ。
 シュテルン公国。
 お前、結構ウワサになってるぞ」

 昼間、向こうのサナトスとは話したが。
 今日はまだ記憶共有をしていない様子。

 で、こちら現実側のサナトスだが。
 外部のファンサイト。
 幾つか記事を見掛けたという。
 端末を電脳に繋いで検索してみる。
 ルーマニア、首都、戦争……
 今日の投稿記事があるな。

『魔女と妖精の諸国漫遊記
 〜ルーマニア編・3日目』

 ブカレスト北門前の攻防。
 動画になっている様だ。
 どこで撮った。視点は城壁の上か。
 俯瞰視点で見ると改めてデタラメだな。

 戦力総動員の薄い横隊。
 緊張した兵士さん達の顔。
 拡大画が少し続いて。
 不意に、ポコココ。
 バリケードや地面の亀裂が沸く。

 と、動画が停止した。
 巻き戻っては再生して。
 視線が動く。
 どこで何やったか探している。

 で……見つかった。
 弓を持った俺が映る。
 魔法付与で穴掘ってた辺りだな。

 やがて、敵騎兵の突撃が始まる。
 宣戦布告については映らなかった。
 敵陣までは見えなかったか。

 騎兵の突撃。
 M2からの集中攻撃で壊滅。
 迂回する敵分隊……
 これも罠に掛かって壊滅。

 コメントも表示される様だ。
『ホビットたん可愛ええ』だって?
 ホントだ。可愛ええ。
 ユッタが一生懸命動き回っている。

『何か子供が居る』
『チームっぽい』
『みんな鳥のマークついてる』

 撮影者も興味を引かれたのだろう。
 子供達の拡大映像が続く。

 敵の斥候が罠に掛かる。閃光。
 ビックリして飛び上がるカリマ。
 アイリスがコケてる。
 地団太を踏むジェマ。

 デルフィアンヌも映った。
 うちの子だと思われているのか?
 俺の周りをウロウロしている。

『あいつ、子供使いだ。酷いな』
『子供使いって?』
『子供を奴隷にして盾にするんだよ』
『酷い』『許せない』

 俺の評価。まあ、酷いよな。
 盾にしているとは心外だが。
 子供を戦わせているのは事実だ。

 戦場の子供達を気の毒がる。
 そんな声が多いのは嬉しい。
 本当に、一日メシ食えるだけで違う。
 それだけ子供達は生き延びられる。

 と、動画、映像が早送りに。

 俺がリュドミラを回収して来る所。
 果ては、お姫様抱っこ体験会まで。
 腰が痛くなって蹲る所まで撮るな。

『あーあ、腰やっちゃった』
『ウケる』
『おっさん自重』
『ほっこりした』

 コメント投稿者達。
 好き放題言ってくれてるな。
 撮影者からも生暖かい応援のお言葉。

 要するに俺の評価。
 寡兵で大軍を退けた云々よりも。
 ほっこりオジサンとか思われてる?
 道理でサナトスがニヤニヤしている。

 ……まあ、それは別に良いや。

 子供は可愛い物だ。
 NPCだろうと何だろうと。
 共感でも集められたら良い。
 孤児達に支援者が出てくれたら嬉しい。

 それより、戦い方が観察されている。
 模倣もあれば対策もされるだろう。
 神人相手に同じ手は通用しない、か?

 次からは情報を持ち帰らせない様に。
 いや、それも無理な話だ。
 ゲーム世界の神人、異世界人。
 よしんば殺しても生き返ってしまう。

 視聴者に将来の敵も居るのだろうか。
 何か手を考えないといけないかな……



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